知ってるかいGodfather



 ジョルノ・ジョバァーナは執務机に爪を立てた。ああ、何ということか! 彼の可愛い弟が誘拐されていたと言うのだ!

 まさかアメリカ大陸へ連れ去られたとは、パッショーネの掌握に忙しかったジョルノには知りようもなかった。スタンドについて詳しく知るにつれDIOとSPW財団との因縁にも詳しくなっていったジョルノの頭は、この誘拐はDIOが原因であろうという予想を弾きだした。死んでなお子供を事件に巻き込むとはなんとも迷惑な父親である。

 女神がうっかり転生したのではないかと思うほど美しいジョルジョは体質がDIOに似たらしく日光が苦手で吸血衝動があり、ジョルノは何度か彼に血を吸わせてやったことがある。慣れないせいでかなりの勢いでかぶり付かれ、とても痛い思いをした。血が滲む肩を舐める弟に背徳的な欲望を全く感じなかったとは言わないが、どちらかと言えば「僕の弟は何をしていても可愛い」という兄馬鹿な感想の方が強かった。四つ離れた弟と身長が並びそうになろうが、弟が十一歳に見えなかろうが関係ない。無償にして崇高な兄弟愛はその程度の事で崩れなどしないのである。

 ジョバァーナ兄弟の関係は、傍目には過度な兄弟愛である。実質的にも過ぎた兄弟愛である。兄は弟を愛しすぎているし、弟は兄のためならば命さえ捨てかねなかった。

 ジョルノは机の上にあるフォトプレートを引きよせ、美しすぎる弟の顔を見つめる。この世に降り立った神のごとき美貌の弟が、まだ黒髪だった頃のジョルノと頬を寄せあい微笑んでいる。この写真だけで国が傾きそうだ。これを見たミスタがジョルジョの性別を勘違いしたあげく「紹介してくれ」とジョルノの足にしがみつき靴にキスまでしようとしたことは嫌な思い出である。もちろんジョルノはミスタを蹴り飛ばしてやった。そのまま蹴り殺しても良いのではないかと頭の端で考えさえし、もしその場にブチャラティがいなければ実行に移されていただろう。

 護衛チーム内でこの写真を見る幸運に恵まれたのはミスタだけであり、ジョルノはミスタが恋の奴隷に落ちていく過程を見た。ミスタの癖に生意気だ。まだ誰一人として欠けていなかったあの列車内のカメナレフの中、ジョルノは愛しい弟の写真を見て幸福に浸っていたというのに、ミスタの哀願は全く視界の暴力であった。ジャパニーズ土下座までして写真を見せてくれと頼むミスタを一瞥することもなく、弟の写真を安売りするつもりのないジョルノは写真を胸ポケットに隠した。百金を積まれても譲ることはないだろう。ジョルジョの笑顔はお兄ちゃんだけの宝物であり、写真をチラ見したければ金を積め。弟と会いたければ俺の屍を越えていけ。ただしジョルノを倒したからと言ってジョルジョに会えるかどうかは不明である。弟にワキガ臭い男などもっての他であるし、ましてやミスタが写真を見たのも偶然の産物でありわざとではない。つまり彼は弟の美貌を他者に見せびからすつもりは麦一粒もなかった。

 そんな目に入れても痛いどころか持ち運べるならむしろ嬉しい弟が誘拐されたのである。SPW財団もとい逆賊伐つべし! まさしく彼らは神敵である。ジョルジョがやる気ならばこの世は既にジョルジョの掌中に落ちていると分からないとは言わせない。何故ならばあの美貌である。地元でも「ジョルジョのためなら死ねる」と豪語する馬鹿は多かった。この誘拐は美しいジョルジョを独り占めしたいがための行為としか思えないのである。早く救ってやらねばならない。きっとジョルノを恋しがって泣き暮らしているに違いない。なんとも麗しき兄弟愛である。度が過ぎているとは言え。

 DIOの血を引くジョルノたちであるが、性格はあまりDIOに似ていない。その要因となったのは守る対象がいるか否かであった。守るべき相手のいなかったDIOにはラブパワーが不足していたのだ。そして、生まれ育った場所が悪かった。内向的で陰鬱なゲルマンの中で育ったDIOは自然と陰険になったが、その血を引いているがラテンの地で育ったジョルノたちに隙はなかった。このラブパッションは挫けないのである。また、食事も悪かった。世界に誇るイギリス料理の不味さは伊達ではなく、貧相な料理は心を荒ませる。ヨーロッパの中でも料理が美味しいと知られているイタリアを見たまえ、彼らの性格はもちろん、ワインの味でさえ陽気である。

 ジョルノ・ジョバァーナはゲルマンの悪く言えば陰鬱さ良く言えば思慮深さを持ち、ラテンの明るさを兼ね備えていた。ミス汐華がイタリア人と結婚したのは結果的にジョルノを優良種に育てることになったのである。彼はチャンスの神様に愛されていたのかもしれない。

「SPW財団どうしてやろうか。僕の可愛いジョルジョを誘拐するなんて全く信じられませんよ。喧嘩売ってるんですね分かります」

 今宵のGERは血に飢えている。月夜ばかりと思うなよ。項垂れながら笑い声を上げ肩を揺らすジョルノはジャパニーズホラーを彷彿とさせ、この場にトリッシュがいれば迷わず逃げたであろうことは間違いない。イタリア人の陽気さは今や見る影もなかった。ジョルノは考えた。どうすれば神敵に天罰を与えることができるだろうか? ジョルジョを取り返すためならばDIOの残党に協力を仰ぐことさえいとわない。手段など選んでいられない。ジョルジョが助けてお兄ちゃんと泣いているのだ、この一分一秒さえ惜しい。DIOの残党は確かアメリカにいるのだったか……蛇の道は蛇、プッチとかいう神父見習いがDIOと仲良くしていたことはジョルノの耳にも入っていた。

 ジョルノにはDIOの野望などどうでも良く、弟さえいればハッピーうれピーなのだ。弟を助けるためならDIOが復活しようが他人が不幸に見舞われようが死のうが。もはやジョルノのスタンドはGERではなくD4Cではないかと疑いたくなるような思考である。病んでいると言われても仕方ないレベルだ。しかしジョルノ・ジョバァーナのハートにはモンスターが潜んでいるわけではない。取捨選択がはっきりしているだけなのだ。その証拠として、ナランチャの死には涙したがアバ茶を出したアバッキオには何もなかった。全く明確で公正な区別である。

 ジョルジョは電話機を取り上げ、内線を繋ぎ情報担当を呼び出した。迷いなど始めからない。愛しの弟を救うためにパッショーネを動かすことに躊躇などあるわけもなかった。


4/6
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