その21
「麻那ちゃんを帰そうとした理由はね……」
この世界と元の世界の時間軸はズレてるっていうか、捻れてる。オレにとっての一日がクロロ君にとっての一年だった十二月十二日から二十三日までの十二日間と、一気に十二年も遡った一月三日の朝。
一目見て分かったのは麻那ちゃんがちゃんとした修行を積んだ念能力者で、少なくとも半年から一年はこの世界に暮らしただろうことだ。――つまりは、今この世界にこれ以上麻那ちゃんがいたら危険だってことだ。こっちの一年が向こうの一ヶ月とかならまだマシだけど、逆だったら。こっちの一年が向こうの十年だったら? ただでさえオレが死んだことで両親を悲しませてるのに、麻那ちゃんまで行方不明なんてことになってみろ……申し訳ないだろ。
オレにはもう向こうへ帰れない理由があるから無理だけど、麻那ちゃんには五体満足で大きな時間のズレがない内に元の世界へ帰って欲しい。
「マナを帰そうとした理由は分かったが、兄さんが向こうへ帰らない理由っていうのは?」
「時間も理由の一つだけど、主なのは別にあるよ」
これはオレの問題だから言えないけどね、と念を押しておく。聞かれてもどう答えたものか困るし。
「なら、オレたちがすべきことはマナを元の世界に帰すことということだな?」
「その通りだけど、クロロ君も手伝ってくれるの?」
「オレが兄さんの手伝いをしないわけがない。シャルならそういった情報を手に入れるのも簡単だろうし、パクもマナの記憶からここへきてしまった原因を探れる」
シャルやパクを見れば、任せてくれと言わんばかりに皆は微笑んでくれる。そんな中ヒソカが「はぁい☆」と手を挙げたから質問の許可を出す。
「コーヤは魔法使いだよね☆ なら妹のマナは魔女ってことで良いのかい?」
全くこの場で関係ない質問だな……自由なのもたいがいにしろよ。首を横に振って麻那ちゃんは普通の女の子のはずだと伝える。
「麻那ちゃんはただの女の子でしかないはずだよ。オレみたいなのは例外。そうボロボロといるもんじゃない」
「なんだ、つまらないな☆」
ヒソカは期待外れと言わんばかりに鼻を鳴らし、オレの知らぬ間に勝手にドリップしたコーヒーを一口飲んだ。金取るぞ。
ウボォーはオレの話が理解できてないらしく「一年が一日ってのが変わって、十二年さかのぼって……? わけが分からん」と唸り、フェイタンは興味なさそうにオレの秘蔵っ子を淹れて飲んでる。金払え。シズクは商品のアップルパイを食べながら何を考えてるんだか分からない。――でもオレに協力しようという気はあるらしく、オレが目を向ければ笑んだり片眉を上げたりした。
「話を聞いてくれて有り難う、みんな。ちょっと風呂で臭い落としたら麻那ちゃん探してくるから今日の夕飯は適当に摂ってくれ」
立ち上がって風呂場へ走る。頭のリースをテーブルの一つにポンと置いて着替えをアクシオし、シャワーをざっと浴びて臭いを落とした。
「兄さん、一人でマナを探せるか? なんなら手伝うが」
「大丈夫。一人でも十分だから先に夕飯でも食べといて」
クロロ君の肩をポンと叩いてマスター限定カードを見せる。
「なるほど」
そして――オレは店に帰れなかった。
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