その18



 アントキバからマサドラへすぐ行くのかと思ってたのに、ビスケ師匠は「情報収集が先だわさ」と言って、か弱い初心者のふりをして情報を集めて行った。鮮やかなその手並みに師匠の演技スキルの半端なさを垣間見た気がする……キルアが気付かないくらいなんだし、師匠の演技は本当に凄いんだね。

 マサドラへの方向は会長に聞いてたこともあって知ってたから、私の修行を兼ねながら三日かけて抜けた。あそこに出るモンスターの六割をカード化できたことにビスケ師匠も笑顔で褒めてくれた。


「ここがマサドラ……!」


 マサドラの門を潜ったのは夕方の六時で、もう九月中旬だから空は暗いオレンジ色に染まってる。きっと明るい空の下ではカラフルなんだろう空に浮かぶ球体もどれも赤っぽくて暗い。

 街全体が球や丸で構成されたこの街は原作ではただ通り過ぎるだけの物でしかなかったから、ここが一体どんな街なのかは見てみないと分らない。街の中を歩き回って道具屋『マナ』を探せば、案外すぐに見つかった。――ハンター文字はまだゆっくりしか読めないんだけど、たった二文字の『マナ』ならすぐに分る。それに、その店は大通りに面してた。


「ここが兄さんの店なんだね」

「あら、あんたの中じゃもう確定してるの?」

「うん。だってコーヤって名前でどうしようもないシスコンで、妹の名前がマナっていう人なんて兄さん以外にいないだろうし」


 兄さんが、家族や友人には限りなく甘い人だったことを覚えてる。五歳の春、両親以上に甘やかしてくれた兄さんが突然いなくなったことに私は怒って、夏休みになったら帰ってくるって父さんや母さんが行ってたのに帰って来なかったことにも怒って。冬になってやっと帰って来た兄さんを、懲らしめてやろうと思ったんだ。本当は大好きなのに大嫌いって言ったし、兄さんの作るおやつは何でも大好きなのに食べないって駄々をこねた。

 そんな中だった。今でも思い出せる、十二月の十二日。除雪車が作った道を走って公園に行って同じ幼稚園の子と遊んだ帰り道、家のすぐ近くの道で、黒髪に黒い目のキレイな男の子が立ってた。服はボロボロで髪はベッタリしてて、臭いにおいがするその子はとっても可哀想で、私は彼を連れて家に帰った。

 それから毎日クロロ君は大きくなっていった。その時の私は「クロロ君はそういうものなんだ」とスルーしてたけど、大きくなってから考えてみればおかしな話だよね。だって普通ならそんなのありえないんだから。

 エレベーターになってる出入り口の前で唾を飲み込んだ私に、師匠は口をへの字にした。


「だけど、あんたにもう一人男兄弟がいるなんて聞いた覚えないよさ」

「それは……私たちとクロロは血が繋がってるわけじゃなくて、兄さんが弟みたいに可愛がってた相手の名前だから」


 クロロ君が十三歳になった頃には、クロロ君に兄さんの隣を盗られてしまった。私の兄さんなのにまるで兄さんの弟みたいに扱われて……。私だけの兄さんなのに、クロロ君の兄さんになっちゃったんだ。

 だからクロロ君が来なくなったことに私がこっそり喜んだことを、兄さんはきっと知らない。これで私だけの兄さんに戻るって思って、でもやっぱりまだ素直になれなくて兄さんに嫌いって言い続けた――その結果が、コレだ。私がこの世界に来てからもう一年近くが過ぎてるから、あと半年ちょっと……それが私に残された期限。それまでに兄さんを取り戻さないといけない。


「じゃあ上がるわよ」


 だけど、上へのボタンを師匠が押そうとしたその時。リターンかマグネティックフォースか――空をかける光が私たちのすぐ近くへ着地した!

 オールバックの黒髪に黒い瞳で身長は百八十センチくらいの男性に、金髪に鷲鼻で長身の女性、ピンク色の髪をした女の子、黒髪に大きな眼鏡の女性とか……クロロ・ルシルフル、パクノダ、マチ、シズク、シャルナーク、ヒソカ、フェイタン、ウボォーギン。え、何で!? クロロ・ルシルフルはクラピカの鎖で、ヒソカは身内を騙った敵だから別行動のはずじゃなかったの!? それにウボォーギンとパクノダ! 死んだはずでしょ!?


「なにね、お前ら。この店に何か用か?」


 不審者を見る目を向けるフェイタンにひるむ。殺気を乗せた視線がビリビリと心臓を刺し、生理的な涙が出てくる。


「待ちなよフェイ。この女、誰かに似てるって思わない?」


 でもシャルナークは――どうしてか知らないけど、愉快そうにフェイタンの肩を叩いた。フェイタンは私を睨む様な目で見つめたと思えばすぐに目を大きく見開く。――クロロ・ルシルフルは私を目を丸くして見つめ、パクノダも目を瞬かせてる。マチはつぅっとこの柱にくっついてる球体に目を向けて一人で納得した様子だし、ヒソカはニヤニヤとしてて気色悪い。ウボォーギンだけは首を捻ってる。


「お前……マナか」


 この世界で、まだ師匠と会長、マーメンさんしか知らないはずの私の名前を、フェイタンは知ってて当然のことのように、口にした。


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