その17



 今日は遊びに――じゃなかったゲームを攻略しに皆が出払っちゃったから、在庫薄になっちゃったカードとか、ゴンたちにこれから必要だろうカードの補てんをしようと思い立った。ボトル系のカードはいつもご機嫌茶色の小瓶から写し替えるだけの単純作業……ひたすら注いで蓋閉めてカードにしてという行程を三時間くらい繰り返した。お昼ちょっと前から始めた作業だけど、今はもう二時半を回ったところだ。お腹が空いてないのは集中してたからかもね。

 台所に移動しながらゴンたちに送るカードについて考える――ゴンには武具っていうより拳派だから獲得経験値上昇の物、オムレツとかに加えてトマトのコンポートも入れておけば飽きが来にくいだろ。キルアは……武器なんて使うっけ? 自分の体が武器っていうタイプだし、キルアもゴンと同じで良いかな。あとプリン。


「プリン、プリンね。なんかここ数日は甘い物ばっかりおやつにしてる気がしてきた……」


 いくらクロロ君がプリン好きだからって言っても、プリン以外のものを食べたいってメンバーもいるだろう。それにプリンは栄養価が高すぎる。健康的かつサクサク食べられるもの――せんべい? バターや砂糖を使わないからカロリーも低めに抑えられるし、せんべいを思い付いた瞬間緑茶を飲みたくなってきた。

 すぐに作れるせんべいなら、えびせんかな? ソースを塗って食べるとやめられないとまらない。これだ。屋台で時々見るたこせんにしても良いわけだしね。


「桜エビとー、青のりとー、鰹節」


 ちなみに鰹節を混ぜるのはオレのレシピで、これを入れると一気にお好み焼きっぽさが増すのだ――だからどうしたと言われると困るけど。

 泡だて器でたぽたぽと混ぜた生地を大きめのフライパンに流して、その上から一回り小さいフライパンを乗せて押すべし! 押すべし!


「サンドバッグに浮かんで消える、憎いあんちくしょうの顔めがけ」


 叩け、叩け、叩けェ!!……実は、一人暮らし&人と会話しない期間が長かったせいか料理中に歌うことや独り言が増えた。分身がハモってくれるんで凄く気持ちよく歌えるんだよね。――でも、改めて考えると自分がかなり寂しい人に思えてくるね。オレって狼にしても一匹狼だよね。一匹狼ってアレなんだよ、全然恰好良くなくて、恰好良いどころか自分の群れを作れないお嫁さん探し中の狼のことを言うんだよ。

 ――そういや、オレってお嫁さん迎えられるんだろうか。


「永遠に十八歳のオレに嫁さん……うん、考えないことにしよう」

「考えちゃ駄目だぞオレ。生産性がないことなんて考えるな」

「考えるなと言われたら考えたくなるのが人というものなのよ、オレ」


 結婚は、無理だ。先ず「出会いがない」。これが一つ目の理由ね。このゲームしてんのなんて九割方が男だし、エレナやイータはそう言う対象に見えない。

 次に、オレと相性が合う人がいそうにない。世の中に星の数ほど女性はいるかもしれないけど、嫁よりもクロロ君を優先しそうなオレを笑って許してくれるような女性は少ないんじゃないだろうか。そして、そんな独身女性と出会える自信がない。

 最後……オレだけが十八歳のままで、相手だけが老いていく姿を見るのは申し訳ない。


「つまりオレは二次元にしか嫁を迎えられないということね。なんだこのオタク、ミルキと仲良くなれそうな要素がたっぷりでお兄ちゃんはびっくりだ」

「大丈夫だ、ミルキはデブだがオレは痩せ型だろ? 安心しろよオレ」

「そうだぜオレ、保育士向けのこの優男フェイスがある限り、ちょっとオタってもキモオタにはならないから」

「そうそう。彼女が出来た試しがないままこの年になっちゃったけど平気だよ」

「分身三号! お前口を滑らすなと平素から言ってるだろ!?」

「その言葉の刃はオレたち自身を深く悲しく切りつけるんだよ、言葉は選びなさい」


 分身三号の口にした言葉は、オレの心をズタズタに切り裂いた――このままじゃ妖精さんとか大魔法使いとかへの未来が開けてるこの事実にちょっと泣きそう。


「大丈夫かオレ!」

「分身三号はこれだから。気にするなよオレ、戯言だと思ったら良いんだよ」

「有難う、分身の皆。でも分ってるかな……オレがオレを慰めるというこの痛々しさを」


 「あ」と気まずそうな表情をして視線を逸らす彼らにため息を長々と一つ吐いて、オレは七枚目のえびせんをフライパンに流す。一人に三枚は欲しいから三十枚くらい焼いておけば良いだろう。――小さいフライパンを上げてせんべいをひっくり返せば、乾燥桜エビが白っぽい生地の表面に浮き出てるのがなんだか縁起が良く見える。


「孤独って、人をおかしくするよね……」


 オレがポツリと呟いたその一言に、分身たちは口元を覆って顔を背けた。


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