その16
羽毛布団の帰宅を待たず、タオルケットと毛布の重ね掛けで睡眠をとった――んだけど、三時間で起こされた。オレを起こしたシャル曰く「この時間に睡眠をとり過ぎると夜に寝れなくなるよ」。言ってる内容には同意するけど、もう少し寝てたかったのが本音だよ。
「ねえコーヤ、明日からオレたちはゲーム攻略に乗り出すつもりなんだ。『これだけは知っておきたい』って裏情報はないの?」
「うーん、そう言われてもね。裏情報なんて言ったらカードのボツネタまで知ってるくらいだけど、ゲーマスは特定のプレイヤーに肩入れちゃいけないことになってるんだ」
シャルがそう訊いて来たけど、オレはこれでもサブマスなんだよね……そう簡単にホイホイと情報はやれない。情報を売るのはトレードショップやカード屋の店主の仕事だし。
「兄さん、簡単なもので良いんだ。まだオレたちはこのゲームに慣れてないから」
「アントキバからマサドラまで全速力で来たクロロ君たちは見逃しちゃったかもしれないけど、鎖野郎と戦った場所みたいな、崖に囲まれた場所があっただろ? あそこは初心者念能力者が力をつけるのに最適な場所でね、あそこのモンスターは必ずどこかしらに弱点があるからそこの弱点を突けばすぐカードになるよ。ゲームの方式に慣れるならそこがお勧めだね」
ボロボロになった羽毛布団をクロロ君とパクが引きずって帰って来たのはほんの十分前の事で、クロロ君は真剣な表情でオレを見つめて情報提供を求めてきた。パクがオレの寝室で羽毛布団を口汚く罵ってる声が聞こえてくるけど、そんなの気にしたら駄目だよね。
「ダンチョーに甘い人だとは思ってたけど、ここまで差があるのか……」
シャルは呆れ顔でオレを見て、すぐに視線をテーブルに落としてため息を吐いた。弟の願い事なら叶えるに決まってるじゃないか、当然のことをさも不思議そうに……変なシャルだな。
「例えばどんなモンスターがいるんだ?」
「とある山では忍者の恰好をした集団が出てくるんだけど、それもカードになるモンスター。だけど倒してもカードにはならなくて、条件を満たせば手に入れられるタイプのカードなんだよ――そうだ。彼らに会うなら今のうちが良い。持ち金全部と、シャツパンツズボン以外の服を巻き上げられるから」
教えて兄さん、と言わんばかりの目を向けられて、拒否できるわけがないじゃないか。
「崖地帯のモンスターはGランクからDランク程度で、クロロ君たちの場合はGなら瞬殺、Dでも瞬殺ってところかな。面倒な作業かもしれないけど、モンスターを倒しておかないと指定ポケットをコンプリートできない」
「つまり、攻略したければ弱いモンスターもカードにして持てってことだね」
「その通り」
シャルが入れた合の手に頷く。
「ふむ……なら、オレたちは九百九十九種類のモンスターを倒さなければならないということか」
クロロ君は顎に手を当てて唸った。
「んー、それはちょっと違うよ。モンスター以外の物、例えば巨木を殴ることで落ちてくる昆虫がカードになったり、とある屋敷に囚われた少女がカードになったり。毎月十五日にはアントキバでじゃんけん大会があるんだけど、その大会の景品が指定ポケットカードだなんてこともある」
「体だけでなく頭も使えということだな?」
「そうそう。それに、他人のブックに入ってるカードを盗むカードも存在するよ。クロロ君たちなら盗まれるより盗む側だろうけどね」
楽しそうに目を輝かせ始めたクロロ君に苦笑が零れる。こういうゲームらしいゲームって言うのかな……典型的だけど魅力的な遊びを、リアルで出来るというのは少年心をくすぐるよね。
グリード・アイランドはある意味でのVRMMRPG(仮想現実多人数参加型RPG)、大規模小説投稿サイトとかじゃログアウト不可能のデスゲーム展開が一般的なアレに似てる。つまり、このゲームは「レベルアップ――ステータス画面なんて見られないから感覚的なものだけど――して特定のクエストをクリアしさえすればログアウトできる」というだけの体感型ゲームでしかないってこと。
命がかかってるとは言えゲームはゲーム。命の危険なんて外の世界でもあるんだし、「楽しんだ者が勝ち」ってことをプレイヤーのほとんど全員は理解してないんじゃないかな? もしそんな風に考えられる人が数人でもいれば、このゲームはとっくの昔にクリアされてるはずだからね。
「――お兄ちゃんがやれるヒントはここまで。あとはクロロ君が楽しんでこのゲームを攻略してくれたら嬉しいよ」
「ああ。兄さんの話を聞いて楽しみが増した」
ニッコリと笑んだクロロ君にオレも笑み返して、そろそろ夕飯を作らないとやばいからソファを立った。大食らいが多いせいで大量に用意しないといけないから、先ずは冷めても美味しいのから作ろうか。
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