その15



 ネテロ会長に本部へ来るように言われて会長室に行けば、会長が入手したゲーム――グリード・アイランドをビスケ師匠と二人でするように言われた。え、だってこれってナントカさんが全部落札してしまうゲームじゃなかったの? なんで会長が一台持ってるの?


「これってオークションに出品されたものじゃないんですか?」


 そう訊ねれば、会長は「良く知っていたのう」と髭を撫でる。


「グリード・アイランドが出品される度にバッテラ殿が買い占めていたのじゃが、今回に限ってはそうではなかったようでな? じゃからこのワシにも買えたというワケじゃ」


 そう言ってほっほっほと笑う会長がなんだか憎らしい。ビスケ師匠に救いを求めて見やれば、師匠は先に知ってたみたいでニコニコしてる――知らなかったのって私だけなのね。


「あたしはこのグリード・アイランドで手に入れられるって言う宝石『ブルー・プラネット』が欲しいんだわさ。でも、あんたの修行を見るのと途中で放り出すわけにもいかない。だから、グリード・アイランドの中で修行を見ながらゲームを攻略しようってことになったのよ」


 ビスケ師匠はそう言いながら親指を立てる。ビスケが師匠になった時からずっと不安はあったけど、まさかこういう形で巻き込まれることになるなんて思ってもみなかった。


「区切りが良いから、十日からゲームに入るわよ。それまでもっと修行して力をつけて、グリード・アイランドで即死なんてことにならないようにするわよさ!」

「ええ!? もう五日しかないじゃないですか!」

「そうじゃ。じゃが心配は無用、手っ取り早く強くなりたい者の心強い味方を用意した!!」

「なんか不安しかないんですけど!?」

「大丈夫じゃ、不安に思うことなど一つもない! ウィングに試させたら今までのビスケの苦労は何じゃったのかと思う程に能力が伸びた、臨床実験を複数こなし副作用も何もなかったものじゃ!」

「あたしの弟子で何したんだわさ!」


 ビスケ師匠が悲鳴を上げてる。――会長が私に進めてるのはドーピング的な薬、もしくは道具ってことだろうか? 『副作用もない』って言葉が逆に不安をあおってる。


「それってやっぱりお薬なんですか?」

「ぬ? いや、料理と菓子じゃ」


 じゃーん、と会長が取り出したのはカードだった。


「何なのコレ?」


 ビスケ師匠は不思議そうに首を傾げてるけど、私には分ってしまった。これはグリード・アイランドのカードだ。でも何故ゲーム外でこのカードが存在できてるんだろう? 持ち出せないはずじゃなかったの?


「これはグリード・アイランドで店を開いておる奴から買ったもので、その効果はホレ、下半分の説明書きに書かれておる」


 オムレツのカードの効果は体力回復に獲得経験値上昇。オムライスとオムソバも似たような効果だけど、体力の回復パーセンテージが違う。オムレツ<オムライス<オムソバの順で14%、21%、54%の回復って……かなり凄くない?


「これがあればすぐに強くなれるじゃろ――まあ、これは正規の方法ではなく裏技。これに頼り過ぎては身の破滅を招くだけじゃ。それを良く良く理解して使うのじゃぞ」


 真剣な表情の会長にのまれ、振り子のように頭を上下する。こんなに真剣な表情の会長は初めて見た。


「この店主はかなりの癖物での、自分の認めた相手にしかこれを売らぬ。しかしそれは当然のことなのじゃ……これらの品は短期間に身体能力や念能力を強化してくれはするが、心の強化はワシら自身がせねばならぬ。

 これを使い圧倒的な強さを手にした者が、その力に溺れて弱者を虐げる者になってしまわぬとも限らん。じゃから、自分の目で確かめた相手でなければアヤツは商品を売らんのじゃよ」


 ワシが勝手に紹介客を増やすせいで倍の値を取られるようになったがの、と笑う会長に、グリード・アイランドで店を営むというその男性に興味がムクムク沸いてく。こんな面白い能力を持ってる人なら、もしかしたら……。


「店主が面白い人間だったことは分ったわさ。で、これはどうやって使うのかしら」


 ビスケ師匠がカードをつつきながら訊ねれば、会長は「ゲインと唱えれば現物になる」と答えた。私の知ってる通りで安心する。


「そうじゃ! これを言っておかんとならんのを忘れておったわ。良いか、このカードは便利なものじゃが、枚数に限りがあることを忘れてはならん。グリード・アイランドに入った後は、店主から直接買えるかもしれん。あくまでアヤツに気に入られればじゃがな。

 アヤツは通販ページのパスワードを弟妹の名前にする位のブラコン・シスコンで、年下に甘いところがある。ビスケは――年齢をバラさねば大丈夫じゃろ。お主は十七じゃから問題ないな」

「あたしが五十七だなんて見て分るヤツいないでしょ」

「まあ、普通なら分らんじゃろうがな。アヤツはちと不可思議な力を持っとるからのう」


 会長はそしてニカッと笑み、最後に一つ爆弾を落とした。


「そうじゃ、これを言っておかねば店に行きようもなかったわい。その店の名前は店主の妹の名前から取って『マナ』、店主の名前はコーヤっちゅーんじゃ。のうマナ、お主の探し人と共通点が多いとは思わんか?」


 目を見開く私に、会長はただ笑うだけだった――


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