その12



 結局オレは三時間拘束された。バッテラ氏は恋人が目を覚ましたことで狂喜乱舞し、財産全てを譲っても良いとさえ言う程だった。別にいらないので丁重にお断りして代わりにゴンたちにグリード・アイランドを譲ってくれるように頼んだら、そのくらい安いと彼はあっさりゲームを手放した。


「じゃあ、マサドラで待ってる――あ、そうだ。ノブナガ」


 ようやっとグリード・アイランドに帰られると思うと、眠気とか疲れが子泣き爺のようにオレの体を重くした。その辛い眠気と格闘しながらどうにか別れの挨拶を言い、その途中でふっとあることを思い出した。


「なんだ?」

「ゴンたちがグリード・アイランドに入るにはまだ少し辛い部分があるんだ。せめて……そうだね、『これがオレの力だ!!』みたいな長所とか技的なものを一つ身につけさせてから入ることをお勧めするよ」

「あいよ、わーった」


 ノブナガは軽く頷いたものの、ゴンたちはちょっと不満らしい。お兄ちゃんがこう言った理由はちゃんとあるんだから、そんな顔しないの。


「二人とも『自分は強いのに』って思ってるだろ? グリード・アイランドに入ることができるのは念能力者だけ……その念能力者たちでさえ、十二年かかってもゲームをクリアできてないんだよ。中では熾烈な争いが毎日のように起きてる。能力者しかいないから能力者同士の戦いだよ。だからもう少し経験値を上げてから入っておいで」


 ジンにうっかり腕を折られて泣いてるゴンとかジンがおしめを確かめもせずに哺乳瓶を口に突っ込んだせいで泣いてるゴンとかを覚えてるせいだろう、『ゴンはオレの息子!』みたいな感覚がある。良くここまで大きくなったよね。ついつい撫でてしまうんだけどゴンが嫌がらないからエスカレートしてしまう。

 あー、眠気でぐわんぐわんしてきた。


「ゴンもキルアもすぐに入りたいと思うから……お兄ちゃんからのプレゼントを、そのうち送るね」

「何? 何くれんの?」

「秘密? みたいな?」


 プレゼントと聞いて目を輝かせたのはゴンじゃなくて何故かキルア。ゴンも嬉しそうに「ホント!? 楽しみ!」って言ってるけど、キルアは何をもらえるのかと気になるらしい。もう帰りたいというか寝かせて……。


「コーヤのことだから菓子だろ」


 ノブナガが二人の頭をぐしゃぐしゃに撫でながら答えに近すぎることを言った。


「じゃあプリン?」

「でもそれだと保存きかねーよな」

「おいおい、さっきのカードのことを忘れたのか? あっちじゃほとんどのモンがカード化できんだろーが」

「盛大なネタばらしをどうも有難うよノブナガ」


 二人には獲得経験値上昇と体力回復の効果があるオムレツを十枚くらい送ろうと思ってたんだけど、料理か菓子かという違いがあるだけの正解を言ってしまったノブナガにちょっとだけ殺意が湧いた。死ねノブナガ死ね。


「え、じゃあコーヤのプリンをまた食べれるの!?」

「楽しみだな。な、ゴン!」


 嬉しそうな二人を見て「違うよオムレツだよ」なんて言えるわけがなく、二人に送る分にプリンのカードが足されることが今この場で決まった。後でノブナガの口座――口座って持ってるのかな――からプリンとオムレツの代金引き落としてやる。案外オムレツの値段は高いんだぞ一万八千八百ジェニーなんだぞ。ついでにプリンは三千六百ジェニー。


「んじゃあ、またね。磁力<マグネティック・フォース>、オレの家」


 ぎゅいん、と頭から体が引っ張られる感覚がして空の旅。うわー、東の地平線が白っぽく光ってるよ。太陽に向かって走るというか飛んでるよオレ。青春だね。朝日が目に突き刺さってかなり痛い。涙が零れないように上を向いても眩しさに変わりはないね。


「とう、ちゃく……」


 短い空の旅を終えたオレは、ぐちゃりと台所の床に倒れ伏す。床の冷たさに心まで凍えてしまいそうだ。パトラッシュ……もう、ぼく、疲れたよ……。


「アクシオ、敷布団、羽毛布団……」


 重い腕を上げて切れ切れに唱えればやってきた敷布団と羽毛布団。


「ああ……君たちはオレの天使だ」


 ガクリと気絶するように眠ったオレはしかし、一時間後にクロロ君たちの悲鳴で起こされた。羽根を生やした見知らぬ女二人がオレを抱き締めていたからだった。オレの布団は一体どこに行ったの?


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