その10



 クロロ君たちと再会して、ノブナガがゴンとキルアの二人と一緒に少し遅れてやってくると聞いた。うーむ、じゃあアレか? ビスケお師匠の出番はなしかもしれないな。後々に何かで関わってくるかもしれないから知り合っておいた方が得だと思うんだけど……バッテラ氏の試験がまだ数日後ってことは、連絡する時間があるってことだよね。なら別行動させるか、いや、ノブナガが修行をつけたがってるというし無理か。


「……どうしようかな」


 居住スペースに八人を無理やり気味に押しこんでオレは店舗スペースで一人寝、と思ってたんだけど、パクとクロロ君が一緒に寝ると騒いでくれたお陰で長椅子二つが占領されてる。長椅子は四脚あるから今日の寝床の心配はないとしても、いつまでもこの状態でいられるわけもない。居住スペースを拡大しようか、それとも八人のためにもう一つルームボールを設置しようか。ちなみにルームボールっていうのはアレだ、この店もそうだけど、円柱から伸びてたり宙に浮かんでたりする球体のことね。

 ルームボールならグリード・アイランド城の二人に頼めばすぐ作ってくれるだろうし、ルームボールを設置しても良いかもしれない。ガラス張りで区切られて入るけど一応このキッチンは対面式で、そこから店内を見れば、クロロ君はオレの上着を布団にして寝てる。毛布もあるっていうのに「これじゃないと駄目だ!」と必死な顔で訴えて来たから折れたんだよ。うんうん、クロロ君は寝顔も恰好良いね。

 さて、クロロ君たちは寝てるのに何故オレだけが起きてるかと言えば、寝る直前に突然ネテロ会長から「明日の昼までにオムレツ百枚、オムライス五十枚、オムソバ五十枚くれ」という注文がきたせいだ。禿げれば良いのに。今育ててる弟子でもいるのかなと思って訊ねれば怪しげな笑い声を上げながら「ヒ・ミ・ツじゃ」と言われたから即刻通話を切った。会長が相手だから倍の値段ふっかけてるんだけどね、金払いが良いお得意様であることに変わりはないし。

 オムレツ百枚のうち七十枚は既に出来たから、あとはオムレツ三十枚にオムライス、オムソバを五十枚ずつだ。そろそろご飯が炊けるから、二十分もすればチキンライスに取り掛かれるかな。


「オムレツ系ってことは、すぐに才能を伸ばしたいってことか? それともすぐに才能を伸ばす必要があるか。まあ、どっちにしろオレには関係ないよね」

「そうだろうな。ネテロ会長のすることに首を突っ込むのは自殺行為だし」


 オムレツをひっくり返しながら独り言を呟く――影分身が相手だから、返事があっても同一人物同士だったら独り言だろ? この十数年はほぼボッチ生活を送ってたから、ちょっと独り言が多くなったかもしれない。それとちょっと口が悪くなったかもね。

 オムソバを作ってるうちにご飯が炊け、しゃもじで切り混ぜてから十分蒸らす。時計を見ればもう二時半を過ぎてた。明日もちゃんと店を開けるだろうか謎だな……起きれなかったらカードをゲインしてもらおう。それか、今のうちにクロロ君たちの分のオムライスかオムソバを用意しておくとか。

 四時近くなってやっと注文分が終わり、さあ寝るかと思った時にメールの着信。


「全く迷惑なメールね、ネテロのクソジジイかしらっ!」

「一体なんなの!?」

「禿げる薬でも送りつけてやれば改心――なんて甘い考えは捨てたわ!」

「ジジイなら絞め殺してやるわ!」


 寝不足のおかしなテンションのせいで女言葉で会長を罵りながらメールフォルダを開いてみれば、なんと公式HPの通販ページからの注文だった。


「誰からだよ。ていうか、会長今度は誰に教えたんだ」


 新規の客はたいがいネテロ会長によって教えられた奴だ。ジンが教えたならまだ許容範囲内だけど、会長はオレを都合の良い人間にしか思ってないからね。キレそうにもなるってものだよ。

 タップしてメールの本文を読む。メールの送信者はゴン・フリークス。……え? コメント欄に入力すればオレに連絡をつけることができるようにしてもらっていたけど、アレを使う奴はほとんどいない。でもゴンはコメント付きで注文をしてきた。


『こんにちは、コーヤ! ゴンだよ! 突然コーヤの姿が消えちゃってオレたちもビックリしたよ。でも今はグリード・アイランドにいるんだね! 昨晩パクさんがノブナガに電話してきて、コーヤの道具屋さんが通販をしてるって教えてくれたんだ。クイズの答えはノブナガが笑いながら入れてくれたよ。コーヤの妹ってパクさんのこと? 道具屋さんなのに、食べ物の写真がたくさんあるのはなんで? それでね、ノブナガがバッテラさん、あ、グリード・アイランドを落札した人なんだけど、そのバッテラさんに取引を持ちかけたんだ。こっちにはゲーム内の魔法道具屋から通販できるから、バッテラさんの欲しいものを買う代わりにゲームを一台くれって。バッテラさんはパナシーアボトルっていうのか、エリクシールっていうのが欲しいんだって。もし手に入れられたらゲームを一台譲っても良いって言ってたんだけど……お願いしても良い?』


 ちょっと前後の文節が死滅してたりするけど、内容は単純明快で分りやすい。確かバッテラ氏は恋人が寝たきり状態なんだったっけ? それで何でも治せるカードを求めた、と。パナシーアボトルなら状態異常の回復、エリクシールなら戦闘不能状態の回復。どちらか一方に効果があれば万々歳ってところなんだろう。

 両方とも、いつもご機嫌な茶色の小瓶ですぐに用意できる分だ。即用意して送ろう――いや、オレ自身が行こうか。梟には会長の注文分を頼もう。


「磁力<マグネティックフォース>、ゴン・フリークス!!」


 本来ならイラストが描かれてるはずの部分に“KOHYA ONLY”と書かれたカードを取りだし唱える。その瞬間、オレはヨークシンへ飛んでいた。


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