その07



 ジョイステーションにマルチタップを繋ぎグリード・アイランド内に入れば、浮世離れした雰囲気の女がオレを待っていた。


「ようこそグリード・アイランドへ。お名前を窺ってもよろしいでしょうか」

「クロロだ」


 オレの名前を聞いた瞬間、女はきょとりと目を瞬かせる。――なんだ? オレの名前に何か心当たりでもあるというのか。


「クロロ様……もしや、コーヤ・ウンノ様の弟君ですか?」


 どこかふわふわとした表情でそう口にした女に、確信が確実に変わった。つまり、この質問の意味することは。


「兄さんがここにいるということか」

「その通りです。ですが慌てないでください。この部屋を出る前にゲームの説明を受けて頂かなくてはなりませんから」


 女の説明時間は短かったが、たった数分のそれながらグリード・アイランド内では必要不可欠な情報は全て知ることができた。ゲームが発売されてから十年が過ぎていることを考えれば、説明も慣れたものだろう。


「コーヤ様の道具には私も良くお世話になっております。素晴らしいお兄様をお持ちになりましたね」

「当然。オレの自慢の兄さんだ」


 出口である塔から出て階段の下で座って待てば、パクやシャルたちが次々に降りてきた。


「あの女、人畜無害そうな顔してかなりのやり手だよ」

「そうだな」


 シャルがうへぇと顔をしかめるのを横目に、監視の目が遠く――三キロほどか?――あることに少しストレスが溜まるのを感じる。今すぐ殺してやっても良いが、これから兄さんに会いに行くことを思うと血の匂いをさせたくないという思いがそれを躊躇させる。


「揃ったか」

「うん、ボクが最後だからね☆ これで全員☆」


 ヒソカが階段を下りてきたのを見てそう訊ねれば、ヒソカはゆっくりと頷いて周囲をぐるりと見回した。


「見られてるね☆ でも弱い☆」

「ああ。この距離でバレる程度だ、かなり弱いな。何故このゲームに参加できたのか分らん程だ……わざわざ相手をして時間を浪費するまでもないだろう。さっさとマサドラを見つけ、兄さんに会うぞ」


 地面から蹴りあげた石をなんとはなしに手にすれば、石はドロンとカードに変わる。――なるほど、「アイテムはカード化する」ね。ブックを出さずにしばらく持っていれば再び石になり、手の中に冷たい感触が戻った。


「こっちかあっち。どっちに行く?」

「マチ、お前の勘は?」

「視線の多い方だと思う」


 マチの言う通り視線の多い方、右手側の監視者が居る方向へ走りだす。兄さんはマサドラにいる、それは確実だ。果たしてどこに店を構えているのかさえ分ればすぐに会える。

 浮足立つ心を落ち着かせ、監視者を無視して街へ。しかし着いたのはアントキバという街――マサドラへの行き方を知る手がかりがどこかにあるはずだ。


「一度解散して情報を得よう。八人いるから二人ずつペアになるか」


 オレとパク、マチとヒソカ、シャルとシズク、ウボォーとコルトピの四つのペアに別れ、腕力を厭わず情報を得に動いた。二時間して再び集まり手に入れた情報のすり合わせを行い、このゲームの特性に対する理解を共有。不便な点もあるが故に面白い……良く考えて作られたゲームだ。


「マサドラはここから北へ八十キロ行った場所――八十キロ程度半日もあれば十分だな」

「でも既に三時よ、クロロ。夜に走ることを厭うわけじゃないけど、兄さんは夜にはもう寝てるかも知れないわ」

「ああ……早寝早起きの人だしな。だがそれなら朝までオレたちが待てば良い。兄さんの店の場所を見つけておけば、明日の朝すぐに兄さんに会いに行ける」


 マチがブックを開いてフリーポケットのカードをまじまじと見つめているのを見て「どうした」と訊ねれば、マチはカードの表面を撫でながら「ちょっとね」とため息を吐く。


「一度行ってしまえばカードですぐに行けるようになるなんて、まるで魔法みたいだ。この能力をグリード・アイランド内から持ち出せれば私たちの仕事の行き帰りは楽になるんだろうにと思っただけさ」

「持ち出せないか試してみるのも良いな」


 そしてオレたちは地を蹴り、北へ――……。


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