その06



 ゴンをこわごわ抱っこできるまでには力の調整をできるようになったけど、ジンは初めからゴンをお母さんに預けるつもりだったようだ。テープにそういう念を施して録音をすると、グリード・アイランドのセーブデータとかテープを入れる箱を用意し始めた。


「あ、待ってくれジン」

「どーした」


 箱をさあ封印しようとしたジンを引き留め、エリクシールのカードを中に一緒に入れてくれるように頼んだ。


「きっと将来的にゴンを助けてくれる」

「使い方が分からなきゃただのカードじゃねーか」

「ジンだって人のこと言えないだろ? グリード・アイランドをプレイしなきゃセーブデータも意味ないんだし」

「ま、そうだけどな」


 ジンはオレの渡したカードも一緒に箱詰めした。


「話は違うがよ、まさかコーヤの道具カードを外へ持ち出せるようにしておくってのには驚いたぜ。通販でもするつもりか?」


 ドゥーンがゴンをあやしながら声を上げて笑った。ジンの目がキランと輝く。


「それだ!」

「それだ?」


 オレとドゥーンはジンの言葉の意味が掴めず目を丸め、ジンはそうだそうだと興奮して鼻息荒くオレの道具カードを振り回した。


「通販だ。通販しろコーヤ! コイツがあれば血清いらずだし、非常食にも困らねー!」

「どうやって通販するって言うのさ。梟がどこにでも届けてくれるとでも思ってるの?」

「お前ならできる!」

「なんて身勝手な」

「コーヤにもできることとできねーことがあるんだぜ?」

「大丈夫だ。コーヤなら何でもできるはずだ」


 信頼されてると喜ばなきゃいけないんだろうか? なんか期待が大きすぎて呆れると言うかジンは馬鹿だと言うか。ため息を吐いてドゥーンを見て、HPに特設ページを作ってくれるように言う。ジンが歓声をあげドゥーンには肩を叩かれた。


「閲覧者の全員が通販できたらアレだからパスワードつけるよ。それでも良いよね」

「ああ。パスは何にするんだ?」

「『オレの可愛い妹と弟の名前を答えよ』かな」

「マナとクロロだったな。弟は今十四歳なんだっけ?」


 ドゥーンがオレのシスコン・ブラコンぶりをこの二ヶ月弱の間にこれ以上なく学んだと言わんばかりに笑いながら訊ねた。


「そうそう。将来は十人に九人が振り返る美青年になるんだ」

「本当にコーヤはブラコンだな」

「クロロ君もそうだけど、マナちゃんは将来は誰もが振り返る美女になるね!」

「お前、妹が好きすぎてキモい」


 ジンがうへぇと吐くフリをして、ドゥーンもジンを否定せずに笑顔がひきつってる。全く失礼な奴らだな、マナちゃんは世界一の美少女になるって決まってるんだからな。後から嫁にくださいって土下座して言われても許さないよ。

 ――そんな会話をしたのは、ジンが去る一週間前のことだ。既にゲームは発売され、プレイヤーたちがマサドラに滞在してる。オレの魔法道具屋へも一時期人が殺到したけど、オレがある条件を満たした相手にしか物を売らないと分かった途端客足は失せた――『ロリショタ趣味の店主』。とても大切な部分で間違ってる気がする……オレはただ、「お前らみたいな奴らにオレの商品は売らん。もう一度ピュアで可愛い子供時代からやり直せ」って言っただけなんだけどな。

 というわけで今のオレの収入源はジンと、ジンがパスを教えた相手による通販だけだ。ハンター協会のネテロ会長がオレの道具を通販した時は自分の目を疑ったけどね。通販をきっかけにメールでやりとりをするようになって、今ではネテロ会長を通じて十二支んと通販をしてる。月収はかなり良いけど浪費する先がないから貯まるばっかりだ。

 一人に飽きたら城に行き、城に飽きたらグリード・アイランドからも出て協会へ茶を飲みに行き、協会に飽きたらジンのところへ姿現しして押し売り販売をしてやった。運悪くゾルディックと知り合ったり通販相手として会長が紹介してくれやがったりしたけど、まあ楽しい十二年を過ごしたと思う。

 そろそろゴンたち来ないかなぁ。お兄さんの精神年齢は三十になっちゃったよ。見た目は永遠の十八歳だけどね。


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