その04



 茶色の小瓶によるドーピングもあってかゴンは健康そのもの――というか握力とか腕力とかがマナちゃんが同じ年だった時の数倍ある気がしてならないけど気にしない――。オレの作る道具という名の料理を口にしてる奴等もなんか最近魔改造されてきてるから不安だ。

 開発に関わったメンバーは十一人いるらしいけど、微妙な調整に必要なのはドゥーンとリスト、エレナにイータ。レイザーはカードを得るための壁として島にいなきゃいけない。よって、今この島にいる人間は先の五人とオレにジンだけだ。――つまり、オレを除く六人のスペックが日に日に恐ろしいものに変わって行ってるんだよね。恐ろしい程に。


「あ゛ぁ゛――!!」


 ジンとしては軽く撫でただけのつもりだったんだろうけど、ジンがゴンの腕を破壊してしまった時には全員で悲鳴を上げた。もちろんゴンは痛みに泣き叫んだ。


「なななななにしてんだよジン!?」

「オレだってわざとじゃねー! ぷにぷにしてんな、触り心地良さそうだなと思って撫でただけだ!! そしたら折れた!」

「わざとじゃないとしても反省しろ!」


 ドゥーンがあわあわと言いながらゴンの折れた腕をさすり、レイザーもどうしたものかと右往左往してる。リストはオレの肩をポンと笑顔で叩き、エレナとイータがオレを涙目で振り返る。三人の目が語る――貴方ならなんとかできますよね、と。なんとかしないわけがないんだから、そんな脅すような目で見ないで欲しいな。


「ジン、次またゴンに触ったら今度はゴンが死ぬかもしれないから自重してね。いつもご機嫌な茶色の小瓶でも死んだ者は蘇らせられないから」

「あ、ああ」

「骨折ならエリクシールで良いかな、体力も失くしてるわけだし……」


 体力回復と状態異常回復の両方揃って嬉しいエリクシールはお得感たっぷり。今ならお安く二割引き!――とか考えながら小瓶から哺乳瓶にエリクシールを注ぐ。麻耶ちゃんにしたようにゴンの頭がオレの胸にもたれかかるように抱いてその口元に哺乳瓶を持っていけば、ゴンはえぐえぐと泣きながら吸い口に吸いついた。痛々しく赤く染まった腕が見る間に治って行く様子に全員が安堵のため息を吐く。


「はぁぁぁ……」


 ジンがターバンを巻いた頭をぐしゃぐしゃと掻きむしりながら座り込む。


「どうすんだよ、これじゃあうかうかゴンに触れられねーよ」

「力加減をおいおい身に付ける他ないですよ、ジン」


 リストが苦笑しながら答え、他の皆もうんうんとそれに頷く。オレの道具――料理は、オレ本人にそのつもりはないのに彼らにドーピング効果をもたらしている。身体的な力を能力とするジンやレイザーの腕力や脚力、体力はほぼ倍化してるし、この島にバリアを張ってる双子の能力はより強固になった。このレイザーに果たしてゴンは勝てるんだろうか……原作が成功するのか不安だよ。


「しゃーねぇ、ゴンを殺しちまうなんて嫌だしな。――にしても、コーヤの薬は本当にスゲーな。いっそのことフリーポケットのカードとかにしちまえばどうだ?」

「えー、それは嫌だなぁ」


 顔を盛大にしかめたオレにジンが不思議そうに目を瞬かせる。だって、カードにするってことはカードショップで売買されるってことだよな? オレは好意のある相手には料理でも道具でもやろうって気はあるけど、好きでも何でもない相手にくれてやるような心の広さはないんだ。


「なんでだよ」

「なんでって言われても、オレだって渡す相手を寄り好みしたいし。むかつくなって思った相手がエリクシールのカード持ってたりしたら嫌だから」


 どんな手を使ってでもそいつを再起不能にするよ、それでも良いのか、と口にすれば、ジンはそれでも良いと頷いた――頷いた? あれ?


「それなら、コーヤの薬や料理はある一定の条件を満たさないと手に入れられないって形にすれば良い。指定カードはもう全部決まってっからフリーカードってことになるが、そうだな……コーヤの出す問題に答えられた奴にだけカードをやることにする、とか」


 ジンの提案にドゥーンとリストが賛成と声を上げる。


「コーヤの料理はオレたちをたった一ヵ月半で倍加させちまうようなモンなんだ。厳しすぎる条件があっても良いと思うぜ」

「僕もそれに賛成です。これといった条件を固定せずに、コーヤが気に入った相手にのみ渡すという形式を取っても良いと思いますよ。その方がコーヤも勝手が良いでしょうし」


 レイザーたちもうんうんと頷いてる。そんな自分勝手にしちゃっても良いんだね……なら、オレの答えは一つだけだ。


「オレの道具もカード化できるようにしてくれ」


 こうして、魔道具屋『マナ』は開店の運びとなった。――それが、グリード・アイランド発売一週間前の話。


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