その02



 後はテストプレイを残すだけだというグリード・アイランドの、ゲーマスのみが居住を許されたグリード・アイランド城。その一室でオレは唸っていた。


「ジィィィン……ゴンが泣いたらオレに知らせるようにって言ったよな? どうしてかなぁ? そこに転がってる哺乳瓶は?」

「あー、これはだな……ホラ、赤ん坊って食っちゃ寝するもんだろ?」


 オレの腕の中には自分の指を吸ってご満悦のゴンがいるんだけど、その頬には痛々しい涙の跡が残っている。さっきまでおしっこの不快感で泣いてたのだ、ゴンは。


「赤ん坊はロケット鉛筆! 飲めば出る! 上から注いだら下から出るに決まってるじゃないか、大人だって飲み食いすれば下から出るんだから。全く……おしめからアンモニア臭がしなかったとは言わせないよ。よくもまあ自分勝手な考えで突っ走れるもんだね、大人同士ならまだしもゴンはまだ赤ん坊なんだ。分ってる?」


 いくらメイドパンダに任せていれば心配ないって言ったって、ジンが「行くぜゴン!」とか言ってゴンを連れて島のどこかへ走って行ったらどうしようもない。メイドパンダはメイドであって念能力者じゃないんだし。

 メイドパンダが使用済みの布おしめを回収して部屋を出て行った。きっと洗いに行ったんだろう。


「すまん」

「すまんで済んだら警察はいらないよ、全く。赤ん坊はまだ免疫力が低いんだから、危険な場所へは連れて行かない。これは何度も言ってるよね」

「ああ」

「ゴンが泣きだしたらおしめを確認する」

「わーった」

「おしめを替えるのはメイドパンダに任せる」

「オレがしちゃなんねーのか?」

「駄目」


 「えー」と顔をしかめて唇を尖らせるジン――分ってるのかな、本当に。


「全く……。免疫力を向上させるものなんてあったっけ? 風邪とか病気は状態異常に含まれるだろうから、状態異常関係の道具なら、うーん」


 ジンに赤ん坊の世話というものをさせたら赤ん坊が死ぬ――テストプレイヤーを頼まれたはずなのに、今のオレはゴンの世話で走り回る毎日だ。本当にこれで来月発売できるんだろうか? プレイし始めてもう三週間になるけど、ゲットできた指定カードは九十九枚中十五枚だけ。絶対に無理、間に合うわけがない。


「状態異常の道具? どういうことだ?」


 オレの独り言に食い付いたらしいジンが目を輝かせる。面白そうだと思ったら一直線なのは良いけどさ、その関心を子育ての勉強にも当てるべきだと思うんだ。


「詳しく話すと長いからざっくり言えば、オレにはちょっとしたスキルがあるんだ。ある特定の料理を作れば、体力を三割回復したり麻痺や怪我とかの戦闘不能状態から通常状態に回復できたりする効果を持たせることができる。ゴンは離乳食をもう食べ始めてるからプリンならいけるかもしれない」


 ジンを見れば目がキラキラしてる。真っ直ぐで分りやすいと言えばそうだけどちょっとヒく。


「それがお前の念能力か、面白ぇことするんだな! プリンはどんな効果があるんだ?」

「体力14%回復っていう効果があるよ。あと、できるなら状態異常回復効果のあるものを口にさせたいんだけどね……」


 何があったっけと思い出してみても、パナシーアボトルしか思いつかない。他の道具は赤ん坊の口に入れるなんて以ての外だから、なるべくなら液体で簡単に飲み込める物が良い――でも、パナシーアボトルって基本的に道具屋で購入する道具なんだよな。


「ドラえもんの四次元ポケットみたいに何でも出てくるものがあればな……あ」


 何でも出てくると言えば、アレならどんな液体でも出てくるはず!


「どうした」

「いや、液体なら何でも出る瓶があることを思い出したんだ。一回出たんだから二度目も出てね、いつもご機嫌な茶色の小瓶!」


 元の歌は「アイツ(嫁)はジン、オレはラム。腰に茶色の小瓶を下げていつも酔いどれご機嫌さフヘヘヘ」という内容の歌だけど、オレが言いたいのはそっちじゃなくて紅茶に牛乳何でも出る方。

 お願い! と心の底から願って目を瞑れば手の中にひんやりとした冷たさと重み。目を開ければ『Whiskey』とラベルの貼られた小瓶があった。お酒について考えてたからラベルが酒のものになったんだろうか……。


「おい待てコーヤ。それ、ウィスキーって書かれてねーか?」

「細かいことは気にしない。空の哺乳瓶ってどこだっけ」

「なあ……それ、酒だろ? ゴンに酒はまだ早いと思うんだけどよ」

「何でも出る。酒も出る。エリクサーももしかすると出る」


 哺乳瓶にパナシーア液を注いでパナシーア哺乳瓶にし、ゴンに用法・容量を守って正しいドーピングをする。ゴンにはパナシーア哺乳瓶は好評だったらしくキャッキャ言いながら飲んでいた。


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