その29



 結局蜘蛛には手も足も出なかったクラピカをどうするか――後顧の憂いは絶つべしのフェイタン派と、念を奪っちゃえば良いじゃんのクロロ派……かと思ったら、クロロが念を盗んだら自殺してしまうだろうから、もう二度と反抗する気が起きない程度にボコボコにしてやろうというウボォー派に分かれた。


「ウボォーはこの鎖野郎に殺されたんだろ? なのに庇うわけ?」


 中立のシャルが不思議そうに首を傾げたのに、ウボォーは「ああ」と大きく頷いた。


「だがな、オレはあんとき納得の上で殺されることを選んだ。ならコイツにもそのチャンスがあって良いだろ? 団長のアレはただの遊びだったからな」

「今回はウボォーに賛成かな。おちょくられた末の無念の死より、互いに真剣勝負の上で殺してやる方が優しいんじゃないか?」


 ウボォーの言葉にマチも賛成票を入れた。


「なら誰が鎖野郎の相手をするの? フェイタンやフィンクスだったら問答無用で殺しちゃうよ」


 そう言って手をあげたシズクにウボォーは胸を張る。


「オレが――」

「また殺されるのがオチだよ」

「止めとけ」

「ウボォーって自殺願望があったんだね」


 マチ、ノブナガ、シャルに止められて不満そうに眉間に皺を寄せてるけど、今回は相手が悪いっていうか相性が悪い。戦うならフランクリンとかシャルとかの中・遠距離タイプが一番じゃないかな。

 問答無用で殺せ派と正々堂々やり合おう派はお互いに一歩も引く様子がなくて、平行線を辿りそうな論争にシャルが片手を掲げて注目を集めた。


「ここはコイントスで決めよう。団長もそれで……何してるの、クロロ」


 シャルの視線の先、クロロ君を見れば、クロロ君はバケツプリンを腕に抱えてもぐもぐ食べていた。


「クロロ君?」

「に、兄さんこれは違う。このプリンがオレに『いつになったら食べてくれるのか』と煩かったから、仕方なく――そうだ。仕方なくオレはこのプリンに手を付けたんだ」

「へー。じゃあクロロ君はプリンの声が聞こえるのか」

「あ、ああ……」


 視線をうろうろとさせているクロロ君。捨て犬みたいな表情をしても、勝手に食べてた罪は重いよ。お兄ちゃんは子供を叱れる大人だということを知ってるだろうに。


「そこに正座!」

「はいっ」


 皆で食べるのを楽しみにしてたプリンを、二つしかないのに片方をほとんどまるまる食べてしまうなんて信じられん。他の皆に申し訳ないと思わないのかな。食い意地が張ってるにしてもこれは酷い。

 懇々とそう言い聞かせ、三十分くらいしたかな? クロロ君を開放して皆を振り返る。苦笑してる皆に少し肩を竦めて「プリン食べようか」と提案した。

 ――クラピカの処遇は後で考えることにしてプリンを優先したからなのか、それとも別の要因があったのか。手の鎖の一つに刃が鋭いものがあったんだろう、縄をほどいたクラピカが逃亡し、バーベキュー台を先に片づけていたオレにぶつかって走り去っていった。

 その背中を目で追って「あーあ」と思い、誰かが追うだろうと視線を元に戻せば。

 屋台がずらりと立ち並び、提灯には新年と書かれて明りが灯り、人込みあふれた夜の街にオレはいた。


「あー……あ? なるほどね」


 キョロキョロと周囲を見回せば、後ろを駆けていく餓鬼の姿。


「はあ」


 白昼夢だったとは思わない。なにせ今着てる服は向こうで買った分だしね。ポケットにはスマホと財布が入ってるだけで、実家から持って帰るつもりだった物はすべて向こうに置いてきたみたいだ。


「帰ろ」


 引き伸ばされてた冬休みは、あと五日もあるらしい。


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