その28



 醤油に砂糖、炒り胡麻、豆板醤などの材料を火にかけた鍋に木ベラでぶち込んで混ぜ、砕いたガーリックチップと赤ワインを入れれば完成の焼肉のたれ。同時並行でステーキソースを作って別の器に。早速そのたれを使って肉を食べたクロロ君は目を見開いて呟いた。


「美味い……!」


 そして次々に上がる「美味しい」の声――当然だね! ステーキソースもお勧めだよと言えばそっちも試さねばもったいないとばかりにステーキソースに肉が放り込まれる。


「どっちも醤油をベースにしてるからさっぱりした味になるだろ? 元々から美味しい部位ならレモン汁や塩胡椒で食べるのも良いね」


 岩塩、ハーブソルト、梅塩。指折り数え上げていれば、ゴンはその味を想像したのだろう、オレを切なそうな表情で見つめてくる。麻耶ちゃんの観てた子供向けアニメのマスコットキャラクター思い出すなぁ……目のキラキラ具合が特に似てる。


「次の機会にしようね」

「うん! 次が待ちきれないね。ね、キルア!」

「ああ、楽しみだな!」


 頷き合う子供二人……果たしてこの子たちは分ってるんだろうか? 次回も参加するってことはつまり、幻影旅団と交流を深く持つ、もしくは幻影旅団の一員になるってことを意味するんだと。二人に分らないようにノブナガに親指を立てれば、ノブナガはこれ以上なく満足そうな笑みで親指を立て返した。


「う……」


 始めはおずおずと、時間が経つにつれて旅団と打ち解けて行ったレオリオとセンリツも、流石にその呻き声を聞いて正気に返ったみたいだ。プラスチックの皿をテーブルに置いてクラピカの元へと駆け寄る。


「縄、ほどいちゃ駄目だよ」

「わーってる!」


 シャルの言葉に「分ってる」と返事をする時点で、とっくに蜘蛛に絆されてるって分ってるんだろうか? キルアは「やべ、存在忘れてた」と呟いてるしゴンはどっちにも味方も敵対もし難いと眉をヘの字にしてる。ノブナガに頭を撫でられてる姿はどう見たって師弟だよね。


「大丈夫か、クラピカ!」

「私は……っ!?」


 クラピカは自分がどうしてこんな状態なのか分らなかったのか、一瞬顔をしかめた。そしてオレやクロロ君を見つけて目をギリギリまで見開いたかと思うと、すぐに別の意味で顔をしかめる。


「幻影旅団!」


 口の周りを焼肉のたれでベタベタにしているゴンがオレたちとクラピカを見比べる。キルアは肩を竦めて肉を焼いては食べる作業に戻った――キルアってなかなか情が薄いよね。キルアにとって優先するべきなのはゴンであって、クラピカやレオリオは二の次だからなのかもしれない。


「何故、私を殺さなかった」

「必要があるからだ」


 唇の端っこに焼肉のたれに入れてた炒り胡麻が付いたままのクロロ君がキリリと表情を引き締めて答える。シリアスが胡麻一粒で一気にシリアルになる……まさに魔法!! なんてことだろう、魔法使いは胡麻だったんだ!!――なんて冗談は絶対に口に出来ない。この世の全ての胡麻が魔法使いになってしまうかもしれないし。お兄ちゃんも勉強したんだよ。


「必要があるからだと? 意識がある時に殺す方が面白いからか?」


 自分の命も省みないクラピカの皮肉に、レオリオの顔が悲痛に歪んだ。


「いや。オレたちは快楽殺人者などではなく、盗賊だ。よってオレが貴様から奪う物は命じゃない。――念だ」

「貴様……!」

「ほとんどの鎖は蜘蛛相手でなければ使えないのが面倒だが、その小指の鎖は有用で便利そうだ」


 ニッと笑んだクロロ君は頬に違和感があったんだろう、手の甲で口元をぐいっと拭って何が付いていたのか確認した。――クロロ君は何も見なかったことにしたらしい。大丈夫だよクロロ君、口の端の胡麻に気付いてたのはきっとオレだけだから。安心してね!

 クラピカはレオリオとセンリツなんて目に入ってない様子でクロロ君だけを真っ直ぐに睨み据える。そして何かを覚悟した表情を浮かべ、クラピカの考えが分ったらしいセンリツが目を剥いて声を上げる。


「貴様に私の能力を使われるくらいなら……」

「クラピカ、止めて……っ!」

「死んだ方がマシだッ!!」


 蓑虫になった手足は使えなくても口は自由になるからだろう、クラピカは舌を噛み切ろうと口を大きく開き――

 オレはその口の中に手を突っ込み、その額に力いっぱいの手刀を当ててやった。


「ぅぐッ!!」


 クラピカは白目を剥いて再び気絶。場にはなんとなく……そう、なんとなく、沈黙が流れた。なんか凄く居心地が悪いんだけど。


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