その27



 センリツとレオリオはクラピカが自分の復讐に巻き込んだだけであって、蜘蛛に対する強い復讐心はない。フェイタンやヒソカも無駄な殺人を好むわけでもないみたいで、どちらかと言うと『必要ならばいくらでも冷酷になれる』『強い相手と戦いたい』ってタイプらしい。人が戦ってるのを観たり自分が戦ったりするのを好むもプロレス観戦やパンチングゲームと同じように考えれば理解しやすいんじゃないか?――まあそういうわけで、復讐者が簀巻きで転がされているのを見て見ぬふりして楽しいバーベキューが開始。


「いやいや、友人が簀巻きにされてる横で和やかに肉の争奪戦は出来ねーよ!?」

「視界に入れないようにすれば気にならないよ。大丈夫」

「あんた優男の見た目のくせして、かなり性格キツいな……」


 プラスチック皿とフォークを無理やり持たせたら首をブンブン横に振って断られたから、友達の存在が気にならなくなる良い方法を教えてやった。なのにレオリオはそれが不満らしい。


「そう? オレは自分が柔和で優しいと思ってるけど」

「自分で言うな」


 肉を焼き始めたらしくジュワーという音が響き、シャルが誰かを「野菜も焼かないと駄目だよ」と注意してる声が聞こえる。


「――ねえ、良いかしら」


 センリツは漫画の通りゴンたちよりも低い身長で、クロロ君とそう身長が変わらないオレを首を反らして見上げてきた。首がかなり痛そうだから片膝を突いて視線の高さを合わせれば、センリツは目を丸く見開いた。


「どうしたの?」

「いえ、そうやって私と視線の高さを合わせようとする人は少ないからびっくりしたの」

「なるほど」


 麻耶ちゃんと視線を合わせるために膝を突くのは当然だったから、自然にそういう行動をしたのもまた当然。ちょうど視線の高さが同じになったオレをじっと見つめ、センリツは改めて口火を切った。


「貴方の心音を聞いていて思ったのだけど……。どうして貴方はそんなに落ちついているの? まるで凪のように何が起きても全く変わらない調子で打ち続ける鼓動。例えば人は大声を上げた時や興奮した時に鼓動が早くなるものだけど、貴方のそれは全く変わらないペースなの」

「へえ?」


 つまり、センリツの言葉を要約すれば「貴方は本当に人間なの?」ってところか。人間を辞めたつもりはないから全く理由が分らないけど、それって危険なことなのかな。


「それでオレの命が危ういとかいうことはないんだよね?」

「ええ。ただ、貴方の脈拍が一定のまま変わらないことが不思議でならないってだけ。まるで機械仕掛けの心臓みたいに変わらないのが気になったのよ」

「本当にそ……今のなし。今のなし。君たち二人は何も聞かなかったしオレは何も言わなかった。そういうことにして」


 やばい、冗談でも「本当にそうだったりして☆」なんて言ってたら、目や耳だけじゃなくて心臓までマシンってことになるところだった。あな恐ろしや、なんて面倒な能力なんだ!――オレの真剣な顔を見て何かあると思ったんだろう、二人は青い顔でコクコクと頷く。よしこれで安心。


「兄さん!」


 そこに突進してきたのはクロロ君とパクで、オレの両腕をそれぞれが掴むと「一緒に食べよう」とか「兄さんの分がなくなるわ」と言いながらオレをバーベキュー台の前まで引きずった。後ろ向きに引きずられながらその場に残るレオリオとセンリツを見やれば、二人ともなんとも言えないと言わんばかりの苦笑を浮かべている。何なんだ?


「ねえ兄さん、何が食べたい?」

「うーん……鶏のテリヤキを作りながら何か摘まむよ」

「兄さん、あのプリンは食べて良いのか?」

「あれは後で皆と一緒に食べる分だから先に食べないように」


 踵で二本の線を作りながら連れ去られて、バーベキュー台の前。肉や野菜を焼いては食べてるメンバーの中にゴンたち二人が入っているのを見て、子供の友情は食欲の前に負けるものだと知った。


「あれ、バーベキューソースだけなんだな」

「ん? 他に何か付けるもんあるのか?」

「焼肉のたれあるだろ?」


 アジトから持ってきたテーブルの上にあるのがバーベキューソースだけなことに驚きながらそれを手にとって見ていたら、何故かオレに視線が集中した。え、何か変なこと言った?


「焼肉のたれ?」

「何それ」


 子供二人も首を傾げ、本からの知識量なら世界一かもしれないクロロ君も分らないらしく不思議そうに目を瞬かせている。


「ジャポンにはそんな物があるのか、ノブナガ」

「いや、ジャポンじゃ焼肉食う習慣はねぇ。コーヤの国にはあるタレなんだろ」

「美味しいの?」


 シズクはバーベキューソースがべったりと付いた焼肉を皿に戻したかと思えば、オレに向かって手を出した。――視線が集中した理由が分ったよ。焼肉のたれは日本で生まれたものだから、和食オンリーらしいジャポンに存在しないなら世界のどこにもないってことだろう。


「分った。材料をアジトに取りに行ってくる」


 頷いたオレに、ゴンたちには悪気はないんだろう、にっこりと笑ってこう言った。


「コーヤってお母さんみたいだよね!」

「だな!」


 止めてくれ……あだ名が「お母さん」なんて嫌だぞオレは。


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