その25



 実際に殺されるシーンを見なかったセンリツとレオリオは「本当に殺せてなかっただけじゃないのか」とクラピカに確かめる。


「いや、私は本当にこの男の心臓を握りつぶした。まさか心臓が二つあるわけでもあるまい……方法は分らないが、死者を意のままに操る外法もあると聞く」


 外法じゃないのか、と眉間に皺を寄せて呟くクラピカにウボォーは「まあお前が思いたいように思ってろ」と言い放ち、クロロ君に先を譲る様に後ろへ下がった。


「皆殺しにしたと思っていたが、まさかクルタ族の生き残りがいたとはな……ウボォーギンの報告を聞くまでは存在さえ忘れていた」

「なっ……!」


 クラピカの顔が怒りで赤く染まる。二人の戦闘に巻き込まれたくないからゴンたちの横、つまり特別観覧席へ移動してそこに座れば、パクがかいがいしく紅茶をプラスチックのマグに入れて渡してくれる。お礼を言って受け取り、またクロロ君の晴れ舞台に集中。


「なんて傲慢、血も涙もないとはお前たちの事だ!」


 ゴンとキルアが居心地悪そうにお尻をもぞもぞさせてる。ゴンたちは昨晩のやり取りを見てるからね……親近感を持った別々のグループが睨み合っている構図がもどかしいんだろう。

 シャルがこのやり取りをどうでも良さそうに横目で見ながらテリヤキサンドを口に運び、初めて食べたんだろうね、目を見開いてオレをバッと振り向いた。


「何これ凄く美味しいよ!?」

「テリヤキサンドだよ。ここで言えばジャポンの味だね」

「テリヤキだと? おお、照り焼きをここで食えるとは思いもしなかったぜ!」


 ノブナガがサンドイッチの入ったバスケットを手元に引っ張って中を探り、テリヤキサンドを見つけて嬉しそうに笑む。


「そういえばさー、コーヤの料理を何度か食べて気付いたんだけど。コーヤが作る料理の中で、食べたら凄く元気になるのがあるんだよね。ホイコーローでしょ、マーボー豆腐でしょ、エビチリに今朝の鮭茶漬け、そしてプリン。この五つって何かあるの?」


 シャルが指についたテリヤキソースをペロリと舐めて、今思い出したといった様子で口を開いた。オレって何かしたっけ……ホイコーロー、マーボー豆腐、エビチリ、鮭茶漬け、プリン。何か共通項があった様ななかったような。何だったっけなぁ、うーん。


「あ、ああ。道具だからだ」

「はい?」


 どこかで聞いたチョイスだなと思ったけど、この五つは全部テイルズのHP回復アイテムだ。行楽用の弁当を作りたかったから朝は焼きおにぎりとお茶漬けにしたんだよね。梅は好き嫌いが分れるから鮭茶漬けにしたわけだけど……鮭茶漬けの効果って何だったっけ。助けてウィキえもーん!


「ちょっと待ってね、効果がイマイチ思い出せないから調べる」


 ホイコーローはHP33%回復に戦闘中火傷防止、マーボー豆腐はHP44%回復に戦闘中HP継続回復、エビチリはHP28%回復に獲得経験値上昇、鮭茶漬けはHP30%回復に戦闘中防御力上昇、プリンはHP14%回復。中華を食べたのは数日前だから効果は期待しないことにしても、今朝食べた鮭茶漬けはその効果を発揮してるだろう。

 ――ただでさえ強いクロロ君が、これ以上防御力までアップしてどうすんの? HPバーが満タンかつ防御力UPのイケイケドンドンイギリス海軍対、昨晩から悩み続けてHPバーが始めから詰んでる太陽が沈みかけのスペイン海軍といったところか。なんてことだ、クラピカの負けがもう既に見えてる……。


「あー、鎖野郎は死んだわ。あれは死ぬ。間違いなく死ぬわ」

「突然どうしたの、コーヤ」


 スマホで検索をした結果が結果だったから確信を持ってそう呟けば、シャルが不思議そうに首を傾げてオレを見る。


「いや、実は今朝の鮭茶漬けは本人の防御力を上昇させる効果があってさ。元気一杯で気力も十分なクロロ君と、昨晩からゴンとキルアのことを心配して精神的にいっぱいいっぱいな鎖野郎が戦うとなると……ね?」


 復讐を諦めるならオレとしてはここで見逃しても良いんじゃないかって思うけど、絶対に諦めそうにないし。


「ただでさえ広かった力量の差が更に広がったってこと? うわー、大丈夫かな鎖野郎」


 口ではクラピカを心配するような内容だけど、実際は全く心配なんてしてないだろう。殺しても良いくらいに考えてるだろうしね。


「どうなることやら……」


 シャルと揃って眼下の二人、クロロ君とクラピカを見る。クラピカはクロロ君に今のところ善戦してるみたいだけど、キツそうなのは表情から分る。どうなるんだろうね……。


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