その24



 生ハムや厚切りのベーコンを贅沢に使ったサンドイッチには暖かい紅茶、行楽のオヤツである団子や煎餅には淹れたての緑茶。そして最後に、クロロ君と食べる用のバケツプリンを二個。大食漢ばかりの蜘蛛だから運ぶ量もそれなりで、移動はオレの姿現しで一瞬とはいえかなりの重さがあるそれを持ち上げるのは「普通なら」無理だ。

 でも、今のオレはトリップしたお陰なのか、それを軽々持ち運べる。例えて言うなら大玉の西瓜を指先でふわっと持てると言えば良いんだろうか? 試しにウボォーを持ち上げさせてもらったら軽々持ち上げられた。中高で掃除の時に椅子を上にあげるよね――上げないところもあるの? まあ良いや気にしたら負けだ――。その椅子と同じくらいの軽さでウボォーを持ち上げられたんで、自分で自分が怖くなったくらいだよ。

 約束の場所へは三十分前に着いた。クラピカの姿はない。


「なんだよ、まだ来てねぇのか? それとも仲間を見捨てて逃げたか」

「クラピカはそんなことしないよ」

「オレとしては逃げたって方が嬉しいんだけどな」

「え? 何で?」

「お前が弟子になるからだろ」

「あ、そっか! でもクラピカは来るよ!」


 ノブナガとゴンが平穏すぎる会話をしているのを聞きながら、さてウボォーをどこに隠そうと隠し場所を探して周囲を見回す。きょろきょろとしてるオレを見て不思議に思ったらしいパクが片手を軽く上げて近付いて来た。


「どうしたの、兄さん」

「ああ、あのね、ウボォーには鎖野郎と会うまで隠れておいてもらおうと思ってるんだけど、どこに隠れさせたら良いのか探してたんだ」


 やる気満々のウボォーは今にも空に吠えそうだ。この時点でクラピカに生存がバレてしまったら後で楽しくないって分ってても興奮が抑えられないみたいで、うずうずとしてるのを見ると困ってしまう。気持ちは分らないではないし怒るに怒れないよ。


「ならアジトに一旦連れて帰ったら? あそこならいくら騒いでも問題ないわ」

「あ、その方法があったか! 有難うパク」


 楽しみ過ぎて興奮状態のゴリラみたいになってるウボォーを連れてアジトへ帰れば、ウボォーは突然連れ帰られたことでびっくり眼になった。


「え? おい、何でアジトに帰って来てんだ?」

「だって今にも大声で何か叫びだしそうだったからね。あの場で大声を上げたら鎖野郎にバレるけど、ここならいくら叫んでも大丈夫だよ。というわけで、九時までここで二人で待とうね」

「なるほどな。んじゃあ有難く――」


 スウと息を吸い込んだウボォーの近くから慌てて離れ、耳を塞ぐ。鼓膜が破れたらどうしてくれるんだ――って、オレの耳はミミアリー君だったな。じゃあ可聴レベルを下げておけば大丈夫か。

 ウボォーが一人で「うおおおおおおおお」とか「はぁあぁぁぁあぁぁあ!!」とか気合いを入れてる姿を横に、スマホの時計を見て九時になるのを待つ。待ち受け画面に『ヨークシン 08:54』と書かれてるのを見た時にはこのスマホの万能加減に呆れたね。オレよりも順応性高いよね、コレ。

 九時二分前になってこっそりあの荒野に行けば、クラピカとレオリオ、センリツがちょうど到着したところだった。岩場の影からこそこそと除くオレって……。


「逃げなかったようだな」

「当然だろっ! 仲間が捕まってるってのに逃げるなんてことができるか!」


 レオリオが唾を飛ばす勢いで怒鳴り、その横ではクラピカが瞳に憎悪の炎を燃えあがらせながらクロロ君を睨んでいる。クロロ君はオレたちがこっちへ来たことに気付いているらしくふっと小さく笑みを浮かべると、クラピカに話しかけた。


「今すぐお前と戦ってやりたいのもやまやまだが、その前にお前と会わせたい者がいてな。そこのセンリツとかいう者なら分るんじゃないか? お前は心音さえも聴き分けられるんだろう」


 センリツは「えっ?」と困惑した表情を浮かべると、耳に集中して二秒とせずに顔色を変えた。


「どうして……? だって、彼は死んだと聞いたわ」

「どうして、か。それは教えられないことだが、とても面白い再会になるだろうことは言える。――来い」


 オレと同じく岩場の影に隠れていたウボォーが満面の笑みを浮かべる。そしてそれを自信に満ちた笑みに変えると、堂々とした足取りでクラピカの前へと歩み出た。――自分の目が信じられないと目を瞠るクラピカを見て呵々大笑するウボォー。


「どうして生きてるって目だな? ま、運はオレを見放さなかったってこった。テメーのその顔が見られて最高に楽しいぜ!」


 リアルに「あーっはっはっは!」って笑う人を初めて見た気がする。呆然と立ち尽くすクラピカが少し哀れに思えてきたけど、怪我しなかったとは言え殴られた恨みは忘れない。というわけでやーいやーい、呆然としてやんの! オレを殴った罰だ!

 クラピカの視界に入らない端っこでそう心の中ではやし立ててたら、センリツが自重しなさいと言わんばかりの目を向けてきたので大人しくすることにした。


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