その22
高性能すぎる耳は壁にミミアリー君、高性能な目は障子にメアリー君と名付けることにして、ミミアリー君の可聴レベル一般人程度に下げる。そんなスーパーイヤー(YearではなくEarね)なんて、ほとんどの場面で必要ないと思うんだ。なるべくゆっくり歩いてホールへ帰れば、クロロ君とヒソカが互いのお守りを爆発させていた。
「……これは一体どういうことなのか説明してくれるかな」
オレがたった数時間前に縫ったお守り袋とボールペンで「超絶☆守護」と書いた紙が、まるで内側から爆発したかのように破れて無残な姿になっている。中に爆竹でも入れたのか? それもヒソカの分もクロロ君の分も両方ともだなんて。
「ヒソカが兄さんの力を信じられないと言って、その証明をした」
「これって念じゃないよね? 凄いなぁ……カフェに併設しておまじないグッズコーナー作ってみたら良いと思うよ☆」
二人ともキリリとした表情。だけどクロロ君、つまりこれは、またオレにお守りを縫って欲しいってことだろう? 明日のお弁当の用意の時間が減るじゃないか全く。夜に針仕事させないでくれよ。
「……キルア、クロロ君のプリンを食べる権利を君にやろう」
「なっ、兄さん!?」
「あー……ダンチョーさんがスゲー目でオレを睨んでくるんだけど?」
「気にするな。ほらゴン、キルア」
絶望した、と顔に書いてオレを見つめるクロロ君は今は無視だ。そしてヒソカ、お前にやる蜂蜜のど飴などない。
手の中のプリンとクロロ君を困り顔で見比べるパクに「これは罰だからね、クロロ君にやったら駄目だよ」と言えば、クロロ君に申し訳なさそうな顔でプリンを食べ始めるパク。クロロ君は涙目だけどこれは教育的指導だから。
「おいしー! これ、本当にコーヤが作ったの!?」
そこに、唇を噛むクロロ君など知ったこっちゃないゴンの歓声が響いた。横のキルアも目を見開いて「マジで美味い……」と呟いてる。オレは正直な子供は好きだよ。クロロ君が掠れた声で「に、兄さん」とオレを呼んでるけど無視。
「ご飯も美味しかったけど、コーヤのプリン、今までオレが食べたのの中で一番美味しいと思う!」
「そうかそうか。ゴン、もう一個食べる?」
「良いの!?」
オレの視界から外れた場所で、クロロ君が膝から崩れた。パクが何度もオレとクロロ君を見比べている。甘やかしたら駄目だよパク。
「クロロ君、あとついでにヒソカ」
「はい兄さん」
「ついで扱いは気にするべきなのかな☆ なんだい?」
「オレが心を込めて作ったお守りを、無駄な戦いで爆砕したことに対して、何か言うことは?」
「ごめんなさい兄さん」
瞬時にクロロ君から謝罪が来た。――仕方がないなぁ。
「ごめん☆ でも本当に効果があるのか知りたかったんだ☆」
「まあ、実際に見ないと信じられないものがあるもんな……。二人とも許してやるよ」
項垂れているクロロ君に近寄って頭を撫でてやれば、念能力者の腕力でギリギリと抱き締められた。トリップ効果かチートボディを持つお兄ちゃんだけど、そんなに強く抱きしめられたら中身が出ちゃいそうだよクロロ君。
「明日鎖野郎を倒したら、パーティサイズのバケツプリン用意するから一緒に食べよう」
「本当か!?」
「お兄ちゃんが嘘を言ったことがあるかい?」
「ない!」
オレが吐いた嘘が本当になってしまったこと、何度もあるみたいだもんね……。可愛い弟の夢を壊さないためにもお兄ちゃんは頑張るよ。
ホールの端っこでゴンとキルアがこそこそと会話している。逃げる算段ってわけじゃないだろうけど、一体何の話をしてるんだろうか。こういう時こそミミアリー君の出番だね!
「……蜘蛛に対するイメージ、がらっと変わっちまったな」
「うん。なんか凄くほのぼのしてるよね。団長はブラコンで、コーヤは魔法使いで家政用サイボーグ! コーヤならオレも兄ちゃんに欲しいな」
「あ、それ分る。飴と鞭を適度に使い分けてるって言うの? オレの兄貴なんてあれだぜ、無表情で何考えてるのか分んねぇイルミに引きこもりデブオタのミルキ。コーヤが兄貴ならオレも家出までは考えなかったかもな」
「一家に一人欲しいタイプだよね」
もしイルミがこの場にいたら、オレは彼に細切れにされて殺されそうな会話だった。
「でもさ、兄ちゃんっていうよりも母さんって感じだよね」
「言われてみればそうだよな! ババアとコーヤを交換したいくらいだぜ!!」
キキョウさんが耳にしたらオレが地獄の果てまで追いかけられそうな言葉だね、キルア……。
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