その21



 プリンを手にホールへ戻って来たオレに、ゴンが一言。


「コーヤは本当はじーちゃんなの?」


 突然どうした。何が起きたというかどんな会話があったの。だけど――そう、オレの(対子供用)ジョークメイカー(つまりはほぼアドリブの嘘っぱち)が火を噴くぜ!!


「――そう、オレは実はGちゃんだ」

「十代にしか見えねーけど」


 キルアが疑り深そうに眉間に皺を寄せる。そりゃそうだ、オレはまだ十八だもん。


「オレは自分で自分を改造し、サイボーグとなった。つまりオレは家政用サイボーグGちゃんなのだ!!」

「な、なんだと!?」


 そこで驚いてるクロロ君、これ冗談だからな? 子供向けの冗談だから本気にしないように。


「なんと両目は暗視スコープの機能を持ち、突然の暗闇でも昼間のごとく見ることが出来るのだ!」

「だからあの暗闇ですぐに動き回れることが可能だったのか……」


 シャルが真剣な顔でオレの両目を見つめる。なんて良い子なんだシャル、子供向けの冗談に真面目に付き合える君が大好きになりそうだ。


「両耳はオレを呼ぶ微かな声も判別し、例えばクロロ君がオレを呼んだ時にはすぐ反応できる!」

「に、兄さん。それはオレと会う前から……?」


 これはクロロ君なりのボケだろう。ならオレはそれに乗らないとならない。


「そうさ。サイボーグになった理由は言えないけどね」


 腕組みしてクロロ君たちを見つめ、ゆっくりと首を横に振る。視界に偶然入ったヒソカがあっけに取られた顔をしてるから口パクで「何か言え」と指示する。


「あーっと、うん。……なら、コーヤのその肌の下にはメタルボディがあるのかい?」


 話の流れに置いて行かれまいとヒソカも頑張ってくれた。偉い、子供の夢を壊さないように頑張ったヒソカには後で蜂蜜のど飴をやろう。


「いや。一部以外は生身のままだ。流石にオレも脳みそのぬか漬けはしたくないからな」

「脳みそのぬか漬け……」


 ノブナガが「これからオレぬか漬け食えねぇわ」と後ろ向きに倒れ、横に座ってたウボォーに支えられた。


「コーヤって凄いね!」


 そう興奮して言うゴンにウィンクした時、何か目に違和感があることに気付いた。ゴミでも入ったかな……。


「あ、プリン食べといてくれる? ちょっとトイレ行ってくる」


 返事を待たずにホールを出てトイレへ。慌て過ぎてろうそくを持ち忘れたことに気付いたのは、トイレに着いて鏡を覗き込んだ時だ。

 ちょっと待とうか。落ちつこうかオレ。――ろうそくで明るかったホールとは違い、廊下は薄暗いから目が慣れるまで時間がかかるはず。だけどオレの目にはちゃんと何もかもがはっきり見えていた。まるで暗視でもできるかのように。あれっ……。

 鏡に映るオレの顔はいつも通りで、保育士になれば良いと言われることの多い草食系男子フェイスだ。美男じゃないけど不細工でもない、そんな顔。なのに、その両目に猛烈な違和感があった――瞳孔の奥に赤い光が見えるんだけどこれ。何これ赤外線的な赤色光線が走ってるんだけど。

 まさかまさかと思いつつ耳に集中してみる。ホールにいるはずのクロロ君たちの話声が聞こえてきた。――この能力だか念だか、かなり拘束がきついな。単なる冗談さえ範囲内か。でもそのお陰でオレの能力が分って来た。

 「○○で(○○が)あれば良い・○○なんだ」等の冗談や嘘が現実のことになるっていうのがオレの能力で、でもそれは必ず現実の物になるわけじゃない。もし冗談の全てが現実になるんだとすれば、幻影旅団は宇宙規模の盗賊団になっているはずだ。「宇宙をかけめぐる幻影旅団」ってゴンたちに言ったにもかかわらず、今のところ地球規模で済んでるんだし。でも実現する確率はかなり高いんじゃないか? 今までオレがなんとはなしに放った言葉のほとんどが実現してるからね。

 ホールにいるはずの皆の声に耳を澄ませる。


「――……まさか、兄さんがサイボーグだとは」

「九十五歳であの外見はありえないって思ってたけど、サイボーグだからだとは思いもしなかったよ」

「兄さんは一体どんな人生を送って来たのか……。きっとオレには理解できないような、辛く悲しい道だったんだろう」


 九十五歳ってどういうことなの。オレは「永遠に十八歳☆」なんて痛々しいことは言ったけど、流石にそんな逆サバを読んだことはないはずだよな。というか何で誰もオレが九十五歳だって信じて疑ってないの? おかしいだろ。というかクロロ君、オレは普通に地球で中流家庭の学生してたからね。そんな波乱万丈な生活はしてないから。


「アレは冗談とか嘘じゃないのかい? あんな、サイボーグだなんてSFじみた話☆」


 ヒソカ、お前は最後の良心だ。いけ、クロロ君たちを論破しろ! 今ならオレが許可する!!


「兄さんはオレに嘘を吐いたことがない」


 はいオワター!


「オレが十五の時、兄さんに手作りのお守りをもらった。『これは一度だけ守ってくれる』と言ってな。――もらった時は単なる気休めだと思っていた。当然だろう? ただ兄さんが布を袋状にして、中に何か書いた紙を入れただけのものだ」


 オレは気休めのつもりだったんだけど、つまり何かあったというわけですね分ります。っていうか、何があったのか気になる。


「だが、お守りは本当にオレの身を守った――もし受けていれば致死傷になっただろう攻撃からだ」


 何その高性能なお守り。そんなの作った覚えないんだけど……。超絶守護のパワー凄いな。そんなお守りがあったらオレが欲しいよ。というかさ、向こうで言った冗談まで効果の範囲内とか思いもしなかったんだけど。


「……へえ、じゃあ今ボクがキミを殺そうとしたとしても、そのお守りに守られるってわけかい☆」

「ああ。だがヒソカ、お前も兄さんからお守りを渡されている。互いに一度ずつ致死傷を免れるだろうが、二度目はない」


 なんか、物凄くシリアスな雰囲気になってきた。

 ホールに帰った方が良い様な帰りたくない様な……。


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