その19



 バラバラ殺人事件は免れ、全員が五体満足でアジトに着くことができた。ゴンの携帯からクラピカに電話するクロロ君は楽しそうで、凄く生き生きとしてる。


「――明日の朝九時、貴様がウボォーギンを殺した荒野で待っている。貴様が来れば人質は解放し、来なければ人質をオレたちの好きにする」


 電話の向こうから罵る声が聞こえてくるけど、クロロ君は要件は伝えたとばかりに通話を切った。片方の唇の端を釣りあげたクロロ君にその場にいる団員に笑いが広がる。


「どうせ死ぬ相手だからと思って詳しく解説してくれたんだろうが、生き返っちまったからな」


 ウボォーはゲラゲラと心底楽しそうに笑っている。フィンクスも「生き返るのは予想外だっただろうな」とにやにやを隠せず、フェイタンは「慢心が破滅を呼ぶ一例ね」とまだ見ぬクラピカを馬鹿にした。


「クラピカを馬鹿にするな! クラピカはあんたたちを倒すためにずっと努力してきたんだ!!」


 ホールの恥っこで簀巻きにされているゴンが大声を上げる。


「それに、生き返ったってどういうことだよ? クラピカが言ってた通りなら、こいつは心臓を潰されて死んだんじゃなかったのか?」


 同じく、ゴンよりももっと厳重にぐるぐる巻きにされてミノ虫状態のキルアが眉間に皺を寄せながら疑問を口にした。傍目にはこれって児童虐待だよな……解放したら逃げられちゃうから仕方ないんだけどさ。


「あ? そりゃアレだ――」

「ノブナガ。手の内を晒すのは命取りだと話していたばかりだろう」

「そうだったな。つーわけで餓鬼共、蘇りの方法は秘密だ」


 クロロ君の制止でノブナガはあっという顔をして申し訳なさそうに頭を掻く。


「まあまあクロロ君。ノブナガはこの黒髪の子が自分の弟子になるかもっていうことでハイになってるんだよ、きっと。――ノブナガ、ハイになる気持ちも分らないではないけど、この二人を解放する可能性がある間は何事も五秒数えてから判断してね」


 オレがウボォーを偶然とはいえ蘇らせたことは旅団の外へは絶対に洩らせない情報だ。死者を蘇らせたい者なんて何人もいるし、この二人にばらすつもりがなかったとしても、情報なんてどこから洩れるか分らない。

 この二人に洩らさなければ、もしこの情報が流出した時にはヒソカが犯人だと特定しやすいってのもあるし。


「すまん。団長も申し訳ねぇ」

「良い。ただ、兄さんが言っているように、これからは気をつけろ」


 頷いたノブナガにクロロ君も小さく笑みを浮かべ、そしてゴンたちを無感動な目で見やった。


「お前たちは人質であることを忘れるな。今回ウボォーを蘇らせた方法を除いて、一般的に死者を蘇らせることができるとされるのは外法のみだ。動く死者にされたくなければ口を噤んでいろ」

「うげっ」


 キルアが傍目には物凄く笑える顔になった。本人は顔を盛大にしかめただけだろうけど、作画崩壊なんて目じゃないね。

 あ、そういえば。


「クロロ君、パクとマチは?」

「別室で応急措置をしているはずだが、どうしたんだ?」

「治せないかなって思ってね。その別室ってどこなのかな」


 んじゃあオレが案内するよ、とシャルが立ちあがった。その手にはオレのスマホが握られている――返してもらうの忘れてた。譲ってしまおうか? こっちでスマホ使うようなことってないしなぁ、でも帰った時にスマホがなかったら買い直しになるし……こっちの貴金属を貰えば良いか。延べ棒あたりを一本くれないかな。くれると有難いんだけど。


「なあシャル、それ欲しい?」


 手からスマホを離さないシャルに苦笑してそう言えば、「欲しいよ! でも、これを持ってたらオレは駄目になる気がする」と悔しそうな表情でオレにスマホを返してきた。


「コーヤのスマホは便利すぎるんだ。使い続けるうちに、前にコーヤが言ってたみたいに中毒になって依存しちゃう」


 オレにとってもスマホは便利で手放せない道具だけど、こっちの世界に来てからのスマホは更に便利になり過ぎている。依存して駄目になってしまうというシャルの言葉も納得だ。――まあ、これからオレが調べるのは依存もへったくれもないんだけどね。

 一言断ってから歩きながらスマホを弄り出したオレの手元をシャルが覗き込む。


「治癒呪文……?」

「ああ。いちいち覚えてなんてないからさ、調べようと思って」


 検索語句に首を傾げたシャルに苦笑いを返す。


「HP回復か、それとも怪我は状態異常扱いになるのか? 助けてウィキえもーん」


 戦闘不能状態と判断してレイズデッドか、それとも単なるHP回復としてファーストエイドをかけるか。――いや、それ以前に魔法が効くの? なんて疑問もあるかもしれないけど、姿晦ましが出来た時点でもう「あ、魔法使いね……うん! 魔法使いになれるのは三十歳からじゃなかったんだね!」と思ったからきっと出来ると信じてる。入学の時期である十一歳の七年前に過ぎてるけど、もう某魔法学校からも卒業の年齢だけど気にしない。


「とりあえずファーストエイドしてみるか」


 結論。

 マチの肋骨が治った! オレは物凄く自分が痛々しい存在になったような気分になった!

 パクの腕も治った! 嬉しさと切なさがごっちゃになって、この感情をどこの誰にぶつければ良いのか分らないのでクラピカ早く来い。


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