その18



 ホテルの前に姿現ししてさて入ろうとすれば、ちょうどフィンクスとフェイタンが入って行ったところだった。その後ろからこそこそとホテルに入るオレ。一番近い柱の影に走って隠れる。今ならオレは風になれるって信じてる!


「説明しろ」

「停電したの」

「その隙に鎖野郎……クラピカとか言うらしいんだが、そいつに団長が浚われそうになった。団長は無事だが、その身代わりにコーヤが連れ去られた」

「どうやら兄さんは魔法でここへ来たようだ。お守りに、オレの危機に間に合うようにとでも魔法をかけていたのかもしれない」


 開口一番説明を求めたフィンクスにシズクが端的な言葉を返し、それにノブナガが付け加える。クロロ君は的外れなことを言ってるけど。そんな魔法があるわけない、あったらかけるに決まってるしね!!


「鎖野郎からのメッセージがこれね。鎖野郎はコーヤをどうにか出来ると思ってるみたいだけど、オレからすればアイツは不可能なことを言ってるとしか思えないな」


 クラピカの残した紙をピッと指ではじいてフィンクスに飛ばし、シャルは肩を竦める。


「何でそんなことが言えるの?」


 足を掴まれ逆さまの体勢で、それでもなお睨み上げるゴンに、シャルは「何を言うやら」と常識を教えるようにあっさり言い放った。


「コーヤが負けるわけない」


 その言葉に笑いだしたのはクロロ君だ。


「逆に相手を消耗させて帰ってくるかもしれないな。基本的に身内以外の他人には容赦ない人だから」

「へ、そうなのか? 気安い奴だと思ってたんだが」

「兄さんの考えは想像する他ないが、始めのうちは愛想だったんじゃないか? その後身内認定を受けて今に至るというところか」


 目を丸くするウボォーにクロロ君は顎に手を添えながら答える。クロロ君ってば流石オレの弟、お兄ちゃんの事分ってるのね! お兄ちゃんは嬉しいよ!!


「そんなもんなのか?」

「お前たちはまだ付き合いが浅いからな。付き合ううちに分る」


 もはやゴンを無視して談笑を始める皆。そろそろ出ても良いよね。


「ただいまー」

「お帰り、兄さん」


 柱の影から現れたオレに何ら疑いを持つことなく迎え入れてくれたクロロ君になんだか愛が溢れそうだ。


「……さっきからコーヤのことをこの人だけが兄さんって呼んでたから、もしかしたらって思ってたけど。あんたの弟って、蜘蛛のリーダーだったの?」


 キルアが顔色悪く口を開き、オレはそれに軽い調子で頷いた。


「うん。オレにとって世界で一番可愛い妹は麻耶ちゃんだけど、世界で一番恰好良い唯一の弟はクロロ君だよ」


 信じられないと言わんばかりに口を盛大に歪ませたキルアは見なかったことにして、眉間に皺を寄せて涙を我慢してるパクを見やる。


「帰って来たから、もう黙ってなくても良いよ、パク」


 無言のままタックルしてきたパクを受け止めて背中をさすれば、あ、ブラホック……気にしない気にしない!


「この餓鬼二人はフィンクス、パクノダ、マチ、シズクの四人でアジトへ連れて帰れ。パクノダとマチはこの餓鬼二人のせいで怪我をしているから無茶をさせるわけにはいかない」

「あいよ」

「分ったわ」

「分った」

「この子はこのまま持って帰れば良いの?」

「おいおいそのままだと死ぬだろ。せめて頭を上にしてやれ」


 何故か知らないけど頭が下のままで十五分置かれていたらしいゴンは、それにもかかわらず平気そうな顔をしてる。これが主人公の体力って奴なのか? 凄すぎるだろ。ノブナガが鋭く突っ込んでお陰で頭が上になったら安堵したようにため息を吐いていた――やっぱり辛かったのかもしれないな。


「シャルナーク、今鎖野郎はどっちへ向かっている?」

「ちょっと待ってね、調べるから。ク・ラ・ピ・カ……複数ヒットしないでよね面倒だな。顔写真見ていくからちょっと待ってね。違う、違う、違う、あ、あった。車の同乗者はセンリツにレオリオって男。ラジオのあいつね。って、あーあ、今口論の真っ最中みたいだよ。この二人を今すぐ助けたいってレオリオと、機を窺うべきだっていう鎖野郎と。センリツは宥め役に回ってるみたい」


 クロロ君はシャルの報告を聞いて、二人の顔を興味深そうに見下ろす。


「お前たち、賭けをしてみないか」

「賭け?」

「賭けってどんな?」


 ゴンとキルアが胡乱そうにクロロ君を見上げる。


「オレはこれから、鎖野郎をアジト近くの荒野に呼びつける。鎖野郎がその場に現れれば、ヤツとの戦いの後お前たちを解放しよう。だが、ヤツが現れなければ、お前たちは蜘蛛の見習い団員としてノブナガの下に付くことになる」


 ノブナガの表情が一気に明るくなる。本当にゴンを気に入ってるんだね。


「良いよ!」

「ちょ、ゴン!?」


 悩むことなく頷いたゴンにキルアが悲鳴を上げる。


「オレはクラピカを信じてるし、それに、あのノブナガって人が欲しがってるのはオレだけだから!」

「――あのな、そう言う話じゃねーんだぞゴン」

「大丈夫!」


 ゴンはニシシとキルアに笑いかける。


「クラピカは来る!」


 キルアは結局ゴンに説得されたというか押し切られてキルアは渋々と頷いた。


「予定変更だ。全員でアジトへ戻る――明日、鎖野郎をあの荒野へ呼びつける」


 団員を見回してそう言ったクロロ君に、全員がしっかりと頷く。そしてクロロ君はパッとオレに振り返った。


「兄さん、この場の全員をアジトへ連れ帰ることは可能か?」

「やってみたことないから分らないけど……やろうと思えば出来るんじゃない?」


 男は当たって砕けろ。クロロ君の手を握り、その場から姿晦ましをする。――ついて来られなかった子はいないよね? 途中でバラバラ殺人事件になっちゃったりなんてことはない、と思いたい。


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