その16



 ラジオが今週の残り一分を告げる。今流れた曲はムーンチャイルドね、月の子供。へえ。


『それでは最後にハガキを紹介します……PNクレオラブさんありがとう。「クレオさんこんばんは、毎週楽しく聴いてます。ところで質問です。クレオさんは何歳ですか? 趣味とか教えてください」まるでお見合いみたいね。まあいいわ教えてアゲル……』


 足がガクガクと震えだす。あと少し、あと何秒も待たずに、時間が来る。クレオとかいうパーソナリティーがまた来週と告げ、時間がやってくる。目を閉じて暗い視界に、まるで闇の中に一人取り残されたような感覚がする。


『JFNが七時をお知らせします。ピッ――』


 足の震えが止まった。


『ピッ』


 実は、ウボォーと買い物に出た時に、ホテル・ベーチタクルの前を通った。場所は知っている。


『ピッ』


 原作でどういうふうクロロ君たちが立っていたのか、原作を読んだのは一週間も前の事じゃないんだ、覚えてる。


「姿晦ましっ」


 目を閉じたまま『魔法を使う』。だって魔法使いなんだからオレは。

 七時を告げる音以外に、エントランスホールにポンと軽い音も響き渡る。数分前から闇に慣れていた視界は良好、向かうはクロロ君とクラピカの直線上!

 クラピカの鎖が走り、ちょうどその時にオレがクロロ君の前に躍り出た。ゴンとキルアが戦っている音だろう鈍い音が後方に聞こえる。鎖は――オレに巻き付いた! オレとクロロ君の背格好はそう変わらない。クロロ君が百七十七、オレが百七十三。体型はそりゃあクロロ君の方が鍛えられてるけどね。


「――ぅしっ!!」


 口も動かせないほどに鎖でぐるぐる巻きにされ、クラピカに拘束された状態でクロロ君たちを見る。今動くわけにはいかない。この場で姿晦ましをしてクラピカから逃れれば、クロロ君たち戦うことになるのはクラピカだけでなくゴンやキルアもだ。原作の主人公を死なせるなんて駄目だ。キメラアント編で人類が滅びるかもしれない――まあ、蜘蛛の皆で討伐してしまえば良いんだろうけど。

 なら今はそのまま連れ去られておいて、しばらくしてから姿晦ましで逃げる! それが一番の方法だ。







 闇に乗じて逃げようとしていたらしい子供二人を拘束し直す。この二人を逃すためだけに電気を切ったのか?

 マチは銀髪の子供を抱きこむようにして拘束し、ノブナガは黒髪の子供を逆さ釣りにして捕まえている。逃亡は失敗、また何かしらのアクションを起こしてくるかもしれない――が、それにしては殺気がない。


「これは……」


 柱に投げつけられたナイフに手紙が括りつけてあった。


「パク平気?」

「左手と奥歯折られたわ。あとは大丈夫」

「あたしもアバラ何本かイってる。ちょっと見くびってたわね」


 二人の会話を流しながら、ライターで手紙を読む――『二人の記憶、話せば殺す』。殺す? 一体誰をだ。


「それよりビックリよ。その子達――」

「待て、パクノダ。これはお前にだ」


 パクノダの話を遮り手紙を渡せば、パクノダは見る間に顔を青くしていった。ホテルの受け付けを勢い良く振りかえり、目を皿にせんばかりに見開いていく。


「兄さんが……」

「兄さんが?」

「兄さんが団長の代わりになって、鎖野郎――クラピカって男に誘拐された!」


 思いもよらない話にオレも目を瞠る。兄さんが何故ここに、そして何故オレの身代わりになったんだ。兄さんはアジトにいるはず。


「ん? 暗いじゃねーか。雷で停電でもしたのか?」


 オレたちから十分遅れてくるようにと言ったからだが、今頃ウボォーギンが現れたということにさえ思考が乱される。


「ウボォー、オメーがコーヤを連れてきたのか?」

「は? そんなわけねぇだろ。どうしたんだ、コーヤがいるのか?」


 ノブナガがウボォーギンに訊ねたものの、ウボォーギンは困惑した様子で逆に訊ね返して来た。彼が連れてきたわけではない、ということは兄さんが一人で来たということ。どうやって来たのか? 他のメンバーに頼んだ? あり得ない。兄さんが走って来たとしてもウボォーが気付かないはずがない。それこそ「突然現れる」なんて芸当でもしなければ不可能だ。――突然現れる?


「兄さんは魔法使いだ。魔法を使ってここに来て、オレに代わりに鎖野郎に捕まった」


 死にそうな顔でメモを見ているパクノダを振り向いてこれからは一言もしゃべらないように命じれば、パクノダはガクガクと頷いた。


「メッセージを残す以上、必ず向こうからアプローチしてくる。――兄さんのことだ、なんとかなる見込みがなければこんなことはしない」


 オレの言葉を継いでシャルナークがうんと大きく頷く。


「まあ、永遠の十八歳って言う名の九十五歳だもんね。そんなに簡単に殺されたりなんてしないでしょ。パクのせいじゃないんだから思い詰めたら駄目だよ」


 パクノダは泣きそうな目を無理に微笑ませ、コクリと一つ首肯した。


17/31
*前次#

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -