その15



 「鎖野郎の居場所を見つけるには緋の目の有り場所を探せば良い」というクロロ君の言葉に、マチが待ったをかけた。


「ちょっと待って、団長。緋の目を落札したのがノストラードなのかって問題があるよ。もしノストラードが競り落としてたら、この写真の中に誰か見覚えがあってもおかしくない。――パク、フィン、フェイ、コルトピ……あの場にいた誰でも良い。この写真に見覚えのある顔はいるかい?」


 昨晩、オークションに参加できる可能性があったのはクラピカのみ。あの場でクラピカが現れれば必ず誰かが気付いたはずで、今頃打ち上げで大騒ぎしていたかもしれない。――というのはオレの原作知識によるある種のカンニングだからこそ言えるもので、前線の情報は聞かされてないオレが口を出せることでもない。

 写真のコピーを見た全員が首を横に振った。


「そうか……」


 苦々しそうに顔をしかめたクロロ君は、きっとなんてない仕草だったんだろう、この場のメンバーをゆっくりと見渡した。そして最後に回したヒソカ用のお守りを嫌々作っているオレを見た途端、ひらめいたとばかりに表情がぱっと明るくなった。


「兄さん、スマホを貸してくれないか」

「スマホ? 良いけどどうしたの?」

「兄さんのスマホであれば、名前さえ分れば相手の居場所も分る。鎖野郎の仲間の一人を捕捉すれば後は芋づる式だ」

「あ、なるほど!」


 シャルがつつつと寄ってきて右手を出したから、その手の上にスマホを置いてやる。こういう形で原作通りになるとは思わなかったけど、これでだいたい原作そのままかな。コルトピがシャルに変わるってくらいだし。


「ありがとコーヤ。スマホって本当に便利だね」

「まあ、便利すぎて中毒になるやつもいるけどな」

「……へえ」


 シャルが無表情になったのがちょっと怖い。すぐに表情を取り戻すとニコリと笑顔でクロロ君を振り返った。


「調べるのはどれにする? はっきり言ってオレはどれでも良いかなって思ってる」

「――二段目の一番左」

「それは勘?」

「ああ」


 マチが勘と言って指示したのは、原作でも蜘蛛と追いかけっこの果てに殺されたスクワラだった。


「んじゃあス・ク・ワ・ラ、と。――現在地はホテル・ベーチタクルだってさ」


 向かうのは三人×2の六人で、クロロ君、ノブナガ、パク、マチ、シズク、シャルが行くことになった。そこにウボォーが「オレも行きてぇ」と立ちあがる。


「ウボォーギンはオレたちの十分後に出てくれ。オレたちをつける者もいるだろうから、お前にはそいつらの捕獲を頼みたい」

「場所が変更になったらオレから連絡しますよ」


 クロロ君の言葉にシャルがニコリと一言付け足し、ウボォーは「いよっしゃああああああ!!」と吠えた。……耳が痛い。


「あ、クロロ君たちの分のお守りはもう出来てるんだけど、持って行く?」

「もちろん持って行く」

「おう、くれ」

「ありがとコーヤ」


 嫌々製作中のヒソカの分以外は出来てるから、名前を刺繍したそれぞれに渡していく。


「ボクの分は?」

「鋭意製作中」


 ヒソカが自分を指差しながら唇を尖らせたけど、出来てもない物を渡せるわけもない。

 行ってくると言ってアジトを出て行った六人を見送って、いそいそと自分も出る用意を始めたウボォーを見つめる。あと数針でヒソカのお守りは完成するから暇だと言えば暇だ。ここで待つ――クロロ君が帰って来ないアジトで待ち続ける? そんな馬鹿らしい話があってたまるものか。クロロ君が苦しい目に遭うことを知っていて待ち続けるなんて無理だ。


「なあ、ウボォー」

「なんだ?」

「オレも行く。連れていってくれ」


 オレの宣言に、ウボォーだけじゃなくフランクリンやフィンクス、フェイタンも目を剥く。ヒソカは「オヤ☆」と珍しい物を見たような顔をし、ボノレノフは包帯のせいで分らない。


「何を考えてんのかは知らねぇが、コーヤ、あんたは足手纏いにしかならねぇ」


 ウボォーは言葉を飾ることなく首を横に振った。


「そうね。団長が帰てくるまでプリンでも作てる方が良いよ」

「そうだぜ。念を知らないあんたが行っても人質にされるだけだろうよ」

「あんたにゃ危険だ」


 フェイタンとフィンクス、フランクリンが揃ってオレに諦めろと諌める。


「二人の言う通りだ。あんたはここにいてくれ」

「じゃあ、オレを連れていけないってことか」

「ああ」


 オレが自分のスペックを開示してないからこそ、こうして心配してくれてるんだとは分ってる。だからこれも当然だと理解はできる。でもやっぱりオレは行きたいんだよ。クロロ君をむざむざクラピカに殴らさせるなんて嫌だ。


「ヒソカ!」

「なんだい?」

「――お守り、出来たから」


 ヒソカに出来たばかりのお守りを投げ渡し、オレを申し訳なさそうに見るウボォーに片手を振って気にするなとジェスチャーした。


「厨房、行くよ」

「すまねーなコーヤ……団長が気になるんだろ?」

「うん。ウボォー、無理言ってごめんな」


 連れて行ってもらえないなら自力で行けば良い。クロロ君たちが出てから十分過ぎるのを待ってるウボォーをチラリと横目で見てから、厨房へ向かって歩いた。今は六時――ここから一番近い駅まであの六人なら十分もいらない。電車に二十分乗ればリパ駅に着き、そこから歩いて十五分ほどでホテル・ベーチタクルだ。

 クラピカの決行は七時ちょうど。あと一時間を焦れて過ごさないとならないのか……。ウボォーの「行ってくんぜぇぇ――!!」という大声がかすかに聞こえ、足が震えていたことに気付いた。


「胸がドキドキする……」


 あと一時間と少し、何をして過ごそうか。


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