その14



 なんだか、飯の時間を重ねるごとに兄さんじゃなくて母さんと化して行っている気がしないでもない。――朝食の後、マチが目をキラキラさせながらオレの手元を見る中でヒソカ以外の全員分のお守りを縫い終えたオレに、クロロ君がこう言った。


「兄さんも占っておこうか。この紙に氏名、生年月日、血液型を書いてくれ」


 他のメンバーも「兄さんは後方だけど、もしもがあったら困るからな」と頷いている。


「オレも?」

「ああ。兄さんの占いの結果も知っておきたい」


 渡された紙に指定された項目をサラサラと書く。(平成)五年……と血液型はA、名前は海野幸也。


「――五年」

「あ、うん」


 クロロ君が目を瞠っているけど、何か問題があったっけ。なんだなんだとノブナガやウボォーもオレの書いた紙を覗き込んでブゥッと噴いている。


「なあ、コーヤは一体いくつなわけ?」

「十八だけど?」


 シャルの目がオレの頭のてっぺんからつま先をスキャンしようとでもするかのようにじっくり走る。パクは「流石兄さん」とか言ってるけど意味が分らない。

 気を取り直してクロロ君がネオンの能力を発動し、オレの予言が出来上がった。


『走り来る小さな影を避けよ

 それは人混み賑わう世界から貴方を孤独へ遠ざける

 声を頼りに歩けば良い

 腹から乞えば岩戸は開かれる


 赤目の鎖は貴方の言葉を握り潰すだろう

 新月もまた月の一つだと忘れてはいけない

 夜の国を司る子たちに分け与えてばかりいてはならない

 恩と命の代金は金銭で支払われる

 取引は平等であるべきだから


 渦潮へ近寄れば巻き込まれるのは必定

 逆十字から離れてはならない

 舵を切っても素人の技でしかないのだから

 流刑の地で信頼の挨拶を交わしてはならない

 晦日の残した破られた紙に背信者は涙を流す』


 三週目に死ぬということか、それとも元の世界に戻るってことか。背信者ってのはクロロ君かな?

 コートの逆十字はキリストへの背信であると考えると、最後の一節は、クロロ君から離れてはいけない、流刑の地――つまりクロロ君と二人でどこかへ逃げた場所――で出会う誰かと仲良くなるな。晦日が何を指すのか分らないけど破られた紙でクロロ君が泣くって意味だな。


「どんな予言になったんだ?」

「こんなのだよ。オレには意味がいまいち掴めないけど」


 クロロ君に紙を渡せば、クロロ君の表情は苦虫を噛み潰したものに変わった。


「一週目だが、三句目までは兄さんがここへ来るまでのことを差していると考えられる。最後の『腹から乞えば岩戸は開かれる』という部分はジャポンの神話に基づくと考えるのが良い――腹から乞えばという下りの『腹から』は『同胞』と言い換えられる。つまり同胞の命を乞うことを意味している。

 兄さんとウボォーに直接的な関わりはないが、オレを仲介して義兄弟のような関係が出来ていたから、同胞と言って差し触りはないだろう。そしてこの岩戸は天の岩戸、神が顔を出すということはつまりウボォーを生き返らせた龍が現れることを言う。よって同胞の命を求めて声を張り上げれば、神が現れ同胞、つまりウボォーを蘇らせるという意味になる」

「なるほど」


 クロロ君は流石に知識を溜めこんでいるだけあるね。一つの音に二つ以上の意味を込められてもオレにはさっぱり分らないし。


「そして、この二週目と三週目が問題だ。鎖野郎が兄さんに鎖を刺し、兄さんの命が危うくなる。新月は見えない月のことだが、新しく入った月とも読めるから兄さんのことを差していると考えられる。そしてジャポンで夜の国を司るのは月詠命――よって、月の子はオレたち蜘蛛。オレたちに与え過ぎるなという内容だな。取引は平等であるべきだと。シャル、パク、オレたちはこれまでにどれほどの物を兄さんから与えられた?」

「これは団長も分ってるんだろうけど、先ずはウボォーの命だね」

「以前のお守りについては? それと乾パンや服も」

「『与えられたもの』に入る可能性は高いな」

「それと、私たちが昨日もらったばかりのお守り」

「コーヤは、ヒソカを除く団員のお守りを今さっき完成させたところだよ」


 オレが今さっき作りあげたばかりのお守りから視線を外し、マチが話に加わる。


「だが対価は金銭で良いとある。それがどの程度なのかは分らないが、命を金で買えるのなら安い物だ」


 クロロはふっと笑ってマチの手元にあるお守りを見やる。


「三節目の渦潮というのが何を意味するのかは不明だが、ざっくり言えば『オレから離れるな』と言うことだな。それが分れば今のところ問題はないだろう」

「四週目がないってのが気になるけどね」

「その時には元の家? 元の場所? に戻ってるとかじゃないの?」

「今のオレに聞かれても」


 シズクの真っ直ぐ過ぎる目がオレを見つめるけど、今のオレに四週目がどうなるかなんて判断は出来ない。

 渦潮ね……。


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