その13



 帰って来たメンバーによれば、鎖野郎ことクラピカはお亡くなりになったらしい。オークションの商品引き渡しに現れたクラピカを、その場のほぼ全員が顔を知っていたためドスッと、ああ……。

 これからの展開、分らんくなったな。





 ということはなく、どうやら何らかの要因があってクラピカはオークション会場に現れなかったようだ。緋の目は名前も知らんどっかのファミリーが競り落としたんだとか。これが主人公サイド補正というものか?


「兄さん、プリンは?」

「作ってない」

「なんだと……!?」


 ボロボロになって帰って来たクロロ君はニコニコ顔でオレにプリンを要求してきたが、作ってないものは出せない。フラリと二歩後ろへよろけたクロロ君をパクが受け止める。


「クロロ君が持って行ったのが最後の一個だったんだよ」


 オレが作ったのは十五個で、昨日は団員+オレで十四個食べた。残りの一つをクロロ君が持って行ってハイ終わり、だ。


「今から作るなんて言うのは」

「作って食べられるようになるまで二時間くらい必要だけど、待てるの?」


 クロロ君は迷うことなく肯定した。オレも笑ってしまう程の清々しい首肯で、その華やかな笑顔は好物を前にした子供のそれと全く同じだった。――妹に甘い自覚はあったけど、年上になってしまった弟にも弱いとは思いもしなかったよ。「仕方ないな」の一言で厨房へ向かったオレはクロロ君に甘すぎるのかもしれない。

 ボウルにプリン液を作り、魔法の茶色い小瓶からバニラエッセンスを数滴ふりかける。ちなみにこの小瓶、液体であれば何でも出る優れ物だ。トクホのコーラが出た時には吹き出してしまった。

 クロロ君の手から帰って来たスマホを弄る。なんとはなしにクロロ・ルシルフルと入力すれば、表示されたのはクロロ君の詳細すぎる、ウィキよりもネタバレ満載で微に入り細に入り書かれたプロフィールと現地点だった。……なんだこれ。

 検索の語を『鍋焼きラーメン 作り方』に変えれば表示されたのはクックパッド――どういうことだ? 人物を検索するとああなるのはバグか、いや、バグとは思えない。トリップしたせいで一部機能が改変されたとかかもしれない。

 これをシャルにやってしまって良いものだろうか。これはあまりに詳しすぎて、本当の意味で魔法の道具と化している。シャルが使えば誰よりも使いこなすことは間違いない。


「おい、コーヤ」

「酒持ってきてやったぜ、一緒に飲まねぇか」


 プリンを蒸らしている間は暇だけど傍を離れるわけにもいかない。椅子に座ってスマホを弄りながら蒸し上がるのを待っていたオレの元に、ウボォーとノブナガがビール瓶を持って現れた。


「へえ、ヨークシンの地ビール?」

「ああ。これがなかなか美味い黒ビールなんだよ。まあ飲もうぜ」

「ツマミにイカソーメンとアタリメがある。お前もジャポン系ならイカソーメン分るだろ」

「分るけど……それ以前にさ、オレはビールを飲んだことがないんだ」


 どぽどぽとジョッキに注がれたビールはテレビCMで良く見るものより黒く、どちらかと言うとコーラに近い色合いだ。


「飲んだことがない? なら焼酎か、ジャポン酒か?」

「親父の魔王を炭酸割りで飲んだ」

「魔王か。スゲー名前の酒だな……」

「お袋の美少年はぬる燗で」

「おいおい、コーヤのお袋さんは少年趣味かよ」

「いや違うけど」


 未成年は飲むなと言うが、新入生歓迎会で飲まないで済むわけがない。大学付近にある桜の名所で新入生歓迎花見バーベキューをしてグビグビ、駅に近い居酒屋で先輩が代わりに注文してゴクゴク、サークル室に瓶を持ちこむ猛者がいてぐいぐい勧められたり。


「まあ飲め飲め」


 ノブナガが上機嫌な顔で勧めてくるからジョッキを持ち上げ傾ける。芳醇な麦の香りが鼻孔を満たし、豊かで舌当たりの良い味わいが舌を撫ぜる。嚥下すれば喉越しも爽やかで美味い。


「美味い」

「そーだろそーだろ。ヨークシンで飲むならこれって決めてんだ」


 どうやらノブナガは既に出来上がっていたらしい。蝋燭の炎しかないから分らなかったけど、良く良く見れば顔は真っ赤だ。ウボォーは見るからに酒好きそうだから同じくらい飲んでるだろうに、ザルなのかワクなのか全くの素面だ。


「まあどんどん飲め。明日からは鎖野郎探しに集中すっからしばらく禁酒だ、今のうちに飲まねぇともったいねぇぜ」


 オレがジョッキを空けるとウボォーがお代わりを注ぎ、オレはオレで魔法の茶色い小瓶からノッキーン・ポチーンをウボォーのそれに注いでやる。なんかノッキーン・ポチーンって名前、ひっくり返したら下品だよな。――どうやらこの茶色い魔法の小瓶ちゃんは名前しか知らない酒でも出してくれるようだ。ジョッキに注ぐ時にむわりと上がったアルコールの匂いに少しクラリと来た。


「こりゃなんだ?」

「オレの知ってる限りでストレートでもギリギリ飲める高アルコール度数の酒」

「そりゃ面白ぇな、んじゃあ有難く頂くぜ」


 ウボォーはビールを飲むようにノッキーン・ポチーンを傾け、倒れた。ノブナガがゲラゲラと笑っている。――オレは、プリンの出来具合でも見るか。


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