その10
兄さんにお守りを作って欲しいんだ、と言われて仕方ないから裁縫道具と布を買ったんだけど、こっちじゃ裁縫をするのは専門職らしい。手芸用品店で針と糸をくれと言ったら店員に驚かれた。
何故か作る優先順位なんてものがあるそうで、先ずはパク、シズク、コルトピの分から作ることになった。ウボォーはオレの手元を面白そうに眺め、出来上がって行くお守りに歓声を上げる。三人分のお守りが出来たところでそろそろ夕飯を作らないとヤバい時間になったから残りの奴らの分は後回し。
ホールに残るウボォーに三人が帰ってきたらお守りを渡すように言って厨房へ向かう。そして厨房で一言ボソリ――
「影分身」
呟けば、七人のオレがそこに立っていた。
本体のオレと合わせて八人で料理を持ってホールへ行けば、そこにはノブナガとクロロ君を除く全員が揃っていた。ウボォーも話し合いに参加してるみたいだけど、あんたは留守番係りだろうに。
「夕飯が来た――コーヤ!?」
一番に振り返ったのはウボォーで、オレを見るや目と口をぐわっと開いた。
「凄い、分身できるんだ!」
「ただし調理に関する時に限るね」
「フェイ、あんたは知ってたのかい」
「朝飯の時に見た。面白い能力よ」
「全部が本体に見えるってのがスゲーな」
「お腹減った」
それぞれ好き勝手に話す奴等に少し苦笑して、端っこに寄せてある小さめのテーブル二脚をくっつけて皿を並べる。
「なあコーヤ、五階の部屋でノブナガが餓鬼二人捕まえてるんだわ。飯持ってってやってくれねぇか」
ウボォーが思い出したようにそう言った言葉にフィンクスが肩を竦める。
「今団員の空きはねぇのに、気に入ったらしくてな。連れ回して育てるとか言って聞かねぇ。餓鬼の方はまあ純粋で直情バカ、ウボォーに似てるっちゃ似てる」
「餓鬼の一人はそうだけど、もう一人はどちらかと言うと頭でっかちでビビリだね」
マチが付けたした情報から、餓鬼二人って言うのはゴンとキルアで間違いない。子供が好きそうな料理とノブナガ用の食事をぱぱっと他の皿に盛り、一人で持てなかったから二人で五階のどこだかに向かう。
「ノブナガ、夕飯だよ。どこの部屋にいるか返事してー」
五階で声を張り上げて進めば、ここだぁという元気な返事があった。入って見ればゴンとキルアご本人がノブナガとオレを睨み据えている。
「夕飯ね。そこの君たち二人も食べるだろ?」
「――ハッ! 何を入れたか知らないけど、オレに毒なんて効かない」
「だそうだよノブナガ。嫌われてるな」
キルアは見るからに弱っちいオレを見て、鼻を鳴らしてそう言い放った。
「無理やり誘うから駄目なんだよ。強化系は強情なんだから、もっと搦め手で行かないと」
「そうそう。ウボォーだって単純直情型だけど頭が悪いわけじゃないし」
ノブナガを驚かせるために隠れていたもう一人のオレが顔を出して相槌を打ち、全く同じ顔同じ格好のオレを見たゴンとキルアがびくりと目を見開く。
「あれ、お前って双子だったか?」
ノブナガはあまり驚くこともなくオレたち二人を上から下までジロジロと観察する。
「じゃあ、オレがコーヤだからこっちはオーヤって呼べば良いよ」
「ちょっと待てよオレ、その名前じゃ感嘆詞じゃないか。せめてソーヤにするべきだ」
「おや、それは思いもしなかった」
疑似双子ごっこをしたらノブナガは疲れた様子でため息を吐き、ゴンとキルアはどうやらオレをそういう念能力者だと思ったらしく小声で「カストロと同じだね」と話している。
「ノブナガ一人しか賛成してないけど、仮にも仲間にしたいと思ってる相手に毒なんて盛らないよ」
「それにオレは、料理に毒を盛るなんて無粋でもったいないことはしたくないんだ」
もし盛らないといけない状況になれば、オレなら飲み水に盛る。仮定の話だから、実際に毒を盛るなんて状況になって欲しくないけど。
「ねえキルア、あの人たちウソは言ってないと思うよ。勘だけど」
「勘かよ!」
「悪い人にも見えないし」
「強そうにも見えないけどね。なあ、コーヤとソーヤだっけ。あんたたちも幻影旅団のメンバーなわけ?」
本人を目の前にして、まあいけしゃあしゃあと……。実際に弱いけどさ。
「いや、メンバーじゃなくて炊事係り」
「すっ……!? あんた、一体なんなんだ!?」
目をかっぴらいて絶句するキルアに、ちょっとだけ悪戯心が湧いて冗談を言った――言ってから物凄く後悔した。言わないって決めてたのにオレの馬鹿。
「なんなんだと聞かれたら」
「答えないのが普通だが」
「まあ特別に答えてやろう」
偉そうな口調だなというキルアの突っ込みが入ったが今は無視。
「地球の破壊を防ぐため」
「地球の平和を守るため」
「愛と誠実な悪をつらぬく」
「キュートでおちゃめな家政夫さん」
「コーヤ!」
「オレもコーヤ!」
「宇宙をかけめぐる幻影旅団のオレらには」
「ショッキングピンク、桃色の明日が待ってるぜ!」
――なーんてなぁ!
いつも冗談を言って宥める相手が幼児なのが悪かったと、後になってから思った。チョイスはオレの好みなものの、だって麻耶ちゃんがポケモン好きなんだもの仕方ないよ。
「というのは冗談として、オレは単なる旅団のお兄さんだ。昨日からな」
「……今の口上は?」
「え? たんなる遊びだけど」
何故かキルアが切れて暴れ回り、ノブナガが抑え込んでくれたお陰で事なきを得た。
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