その09



 クラピカがどこにいるのか分らないため、わざと街中で姿を現すことで炙り出そうという話になった。ここでゴンとキルアが捕まるんだよな……会ってみたいな。原作の主人公っていうのがどんだけカリスマの塊なのかとか気になるし、果たしてウボォーが生きていることでどう話が変わるのか知りたいっていうのもある。

 クロロ君がプリンを持ったまま行ってしまったのをしょっぱい気持ちで見送った後、ウボォーの背中に乗って街へ出て食材の買い出しをすることになった。ウボォーによる鎖野郎、つまりクラピカの顔はパクを通じてメンバーのほぼ全員に伝わっているそうだから、ウボォー本人が必要ではないらしい。鎖野郎の度肝を抜くためにウボォーが生きていることを隠すのだとか。街中で見つけられたら困るんじゃないかと言ったらサングラスと服装で別人に変身していた。ヤクザっぽいという意味で。


「なあ、お金は?」

「んなもん持ってねぇ――と言いたいところだが、シャルからカード預かってる」

「良かった。オレは盗賊じゃないし、盗むって行為には気が引けるから」


 ウボォーからカードを貰い、旧市街の雰囲気がある古いレストランで昼飯を食べる。


「おい、これを十人前くれ」

「十人前ですか?――分りました。しばらくお待ちください」


 たった二人しかいないのに十人前ってことに一瞬店員さんは動きを止め、ウボォーの巨体で納得したんだろう、すぐに頷いて厨房へ行ってしまう。二十分ほどゆっくり待たされて出てきたのは香ばしい匂いのする肉厚で焦げ目も美味しそうな牛ステーキのバジルバター添えにフレンチフライ、コーンと人参などの温野菜サラダが乗ったプレートだった。


「ナイフとフォークなんて使うの久しぶ……」


 だいたい箸で何でも食べるから、ナイフとフォークで何かを食べるのはしばらくぶりだ。少し笑いながら正面に座るウボォーを見れば、ウボォーはステーキをナイフで突き刺してそのまま齧り付いていた。原始人……。


「あ? 何か言ったか?」

「いや、何も言ってないよ。ところで、ウボォーは九人前で足りるのか?」


 ウボォーの前には次々に皿が並べられていってるけど、それでもこの巨体だ。たった九人前で済むとは思えない。


「足りなきゃまたどっかで食えば良い」


 炭酸水で口の中の脂分をリセットしながら食べるオレに対し、ウボォーは飽きることなく肉を食べている。人種からして違うんだとは知ってるけど実際に目にすると胸やけがするな。

 レストランを出てからは買い物で、今晩の夕食に必要なものやその他オレの着替えとかも含めて買った。シャルには何かお返しをした方が良いんだろうか……一応これはシャルのお金なわけだし。オレに返せるもの――思い付かない。そういえばスマホ取られたままだけど、あれをやったら喜ぶかな。


「そろそろ帰ろうか」

「……なあコーヤ。お前、本当に念を覚えてないんだよな?」

「そうだけど、どうかした?」


 今のウボォーとオレは両手から背中から荷物でもっさりしてる。アレもコレもとスーパーでカゴに食材を放り込んでいくウボォーに、どんだけ買い込めば満足するんだろうかと途中で思ったけど、ウボォーの巨体とフランクリンの更なる巨体を思うと多すぎるくらいでちょうど良いだろうと思いなおした。


「いや、お前って見たところそんなに鍛えてるわけじゃないだろ。なのに、その量の荷物持っても全然苦にした様子がないんでな」


 それはオレ自身も不思議に思ってることだ。


「全く重さを感じないとは言わないけど、この荷物を持ったまま跳ねまわれそうではある。ちょっとかさばってるのが歩きにくいくらいだな……もう面倒だし、このままアジトまで瞬間移動出来たら良いのに。姿現し的な」


 そう言った瞬間、ポン、という音がしてゴム製のチューブに無理やり詰められたような感覚がした後、オレたちはアジトの厨房にいた。


「な、何が起きたんだ!?」


 困惑の声を上げるウボォー。だけどオレはなんとなく、これまでの経験で分ってきてしまった。オレが「(絶対にそんなことは起きるわけがないけど)○○であれば良いのに・○○になれば良いのに」と発言した時、それは事実になる。神龍の時も今朝の料理の時も、今だってそうだ。これからは冗談でも死ねとか言えないな。かなり言葉の選択に気を使うことになりそうだ。


「あー……オレはほら、魔法使いだし。瞬間移動もお手の物なの、きっとそうに違いない」


 魔法使いって名乗るのはかなり自虐的だが、こうとしか言いようがない。――こっちに来てから、なんだか順応力が凄く高くなってる気がするよ。


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