その08



 どうやら皆が起き出すのは七時と決めていたらしく、腹が減ったと言いながらウボォーが厨房へやってきた。


「食材がないから作りようがないぞ」

「あ? 料理なんて女連中が作るわけ……コーヤ、お前料理出来るのか」

「もちろん。和洋中何でもござれだ」

「――なら中華を作るね」


 ウボォーの影からフェイタンがすぅっと現れた。見るからに中華系のフェイタンだし、その注文に納得してしまう。


「本格中華はちょっと味付けの関係で無理だが、オレの味覚に合うようにしてるのなら作れる。それでも良いか?」

「ここの華僑共、腕が鈍てる。あいつらに比べればコーヤ好みの味付けということに文句言わないよ。もちろんコーヤなら腕に自信、あるだろ?」

「まあな、不味いものは出さないと約束しよう。だけど、根本的なところで今すぐに作るってのは無理だ」

「何故ね」


 眉間に皺を寄せたフェイタンに申し訳なく思いながら、オレはさっきも言った言葉を繰り返す。


「食材がないから、作りたくても作りようがない」


 フェイタンは嫌そうに口元を歪めたと思えば、食材確保してくると一言残して厨房から消えた。やっぱり盗んで手に入れるのかね? 買おうにしても、今はまだパン屋くらいしか開いてない時間だし、盗む以外にないな。

 盗みな……盗みか……盗まれた方はたまったもんじゃないだろうけど、これが幻影旅団なんだと言われると反論できないというか、ある部分では仕方ないんじゃないかって思わなくもないんだよな。とりあえず、フェイタンがお店にお金を置いて帰ってくることを願っておこう。

 三十分もせずに帰って来たフェイタンは大量の具材を厨房のテーブルに置き、さあ作れと言わんばかりにそこの椅子に腰かける。見られながら作るのって気がすり減るんだけど。

 八宝菜、回鍋肉(ホイコーロー)、酸辣湯(サンラータン)、青椒肉絲(チンジャオロースー)、棒棒鶏(バンバンジー)、油淋鶏(ユーリンチー)、炒飯。オレが汗水垂らして料理しているのを手伝いもせず、ただフェイタンはオレの背中を見ているだけだった。手伝っての一言を言わないオレもオレだけど、手伝おうかの一言さえないフェイタンは酷いと思う。


「手伝い? ワタシがそんなのすると思うか?」

「なんてことだ」


 全く手伝う気がないとは思いもしなかった。


「ふっ……フェイタンがそのつもりなら、オレにも策がある! 実はオレはこう言う時多重影分身によって幾人ものオレを生みだし、同時並行で調理をすることが可能なのだ!!」


 ――大学のクラブでのノリをそのまま持ってきたのが悪かったと、数日後のオレはこの時のことを振り返っている。いつもなら友人連中は「馬鹿だこいつ馬鹿だ」とか「幸也ェ……」とかって反応をしてくれるんだが、ここはハンターハンターの世界だった。元ネタなんて知ってるわけもなかったんだ。


「おいオレ。お前は八宝菜係りな」

「あ、分った」


 肩を叩かれて振り向けば数人のオレがいて、なんか良く分らないけど混乱したまま調理をして料理を完成させた。あれ。何が起きてたの。


「お前の念能力は面白いね、戦うでなく料理に能力使うなんて」

「あ、うん」


 ウボォーはオレが朝飯を作ってると皆に伝えてくれていたらしい。出来た料理を持ってフェイタンに着いて行けば、腹を空かせたナリの大きすぎる子供がオレを待ちかまえていた。全員の目がオレに向くと圧迫感があって怖いな。

 そこに、包帯巻き巻き男もしくは歩くミイラとしか言えない姿の男が、気さくな様子でオレに声をかける。


「オレはボノレノフ。団長の血の繋がらない兄だそうだな」

「オレは幸也。兄とは名乗ってるけど、年齢を追い越されちゃってるからね。今はオレが年下」


 差しだされたから握手をしたけど、手にいくつも穴があるからか感触がなんか違うな。


「久しぶりに兄さんの料理を食べられる」

「コーヤの料理はプリンしか食べたことがないけどかなり美味しかったもからね。これだって見るからに美味しそうだし」

「兄さん、ここに座って」


 マチはオレの並べて行く料理に口の端を持ち上げ、パクは自分の横を叩いてオレを呼んだ。


「なあ、酒は?」

「これから鎖野郎を炙り出しに行くんだよ?」

「良いじゃねぇかちょっとくらい。中華に合う酒があっただろ、出して呑もうぜ」

「ちょっとで済まないから言ってるんだけどね」


 ノブナガが朝から不健康なことを言いだした。それをあきれ顔で止めるシャル。シャルの言う通りだと思うぞ。


「あ、美味しい」

「ふむ、悪くないね」


 シズクとフェイタンはマイペースにさっさと食べ始め、フランクリンは静かに、フィンクスはノブナガとシャルの口論をニヤニヤと見ながら、ヒソカは――何を考えてるのか良く分らない表情で食べている。


「懐かしい味がする」

「良かったわね、クロロ」

「ああ。だが欲を言うと兄さんの手作りプリンが……」

「本当にプリンが好きだね」


 感動しているらしいクロロ君にパクとマチが相槌を打っている。食後にプリンがあるって言った方が良いのかな。


「クロロ君、ご飯の後にプリンがあるよ」

「それは本当か!?」


 クロロ君はキラーンと音がしそうなほど目を輝かせ、あの十日余りの間にオレがほぼ毎日プリンを作らされてたのは、単にクロロ君がオレに一年に一度しか会えないからというだけではないと理解した。

 クロロ君、今はまだ冷やしてる最中だから。落ちつけ。


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