その06



 目が覚めたら横に原始人がいた。


「えっ」


 目を擦ってもう一度見る。オレはキャラクター抱き枕カバーなんて買った覚えはないし、それにこれは生身だ。あらやだお持ち帰りされちゃったの? それも男同士――オレの貞操盗まれた!?

 尻に手を当てれば無事だったらしく痛みもなければ尻の穴の緩みもない。今日も元気に引き締まっているようで安心だ。カマ掘られるとか、そのケがないのに勘弁してくれ。……と、そこまで考えてから思い出した。こいつの布団を借りて寝たんだったと。


「ん……コーヤか。まだ五時にもなってねえのに良く目が醒めたな」

「うわ本当だ」


 オレの横でゴロゴロ転がるウボォー。体重もあるからかウボォーが動くとベッドも揺れる揺れる。

 目覚まし時計は早朝の五時を指し、昨晩寝たのが何時だったかは分らないけどきっと今日の睡眠時間はそんなに長くなかったに違いない。二度寝するか? いやでもクロロ君がプリン食べたいって言ってたからな。今からすれば朝食には間に合わないけど昼飯には間に合うだろうし、作ろうか。


「なあウボォー、台所ってどこだ?」

「あ? 何か作んのか?」

「ああ。九年振りの弟のご機嫌取りでもしようかってな」


 ウボォーの巨体のためにキングサイズのベッドから降り、靴を履く。


「あー……口で言っても分んねえだろうから案内してやるよ」


 ウボォーは頭をボリボリと掻きながら起き上った。見上げるような巨体に身に付けるのは原始的すぎる獣の皮――そう言うファッションなのかもしれないけど、似合ってるけど、文明化された時代の人類としておかしい気がする。


「ところで、何を作って、それには何が必要なんだ?」

「作るのはプリンだ。卵と牛乳と、グラニュー糖――砂糖でも良いんだが――があれば問題ない」

「確か全部あったと思うが、あんましここでメシ作ることなんてないからあやふやだな」


 材料があるけど道具がなくて作れない、なんて可能性もあるのか。

 ――結果。どこをどう探しても道具が見つからない。計量カップやボウルはあるが蒸し機として必要な鍋がない。泡だて器がない。


「まさかデカい鍋と泡だて器がないなんてバナナ。きっとあれなんだ、見つかってないだけに違いないそう信じてる」


 ボソボソとそう呟きながらキッチン台の下を漁っていたら、後ろからウボォーがオレの肩を叩いた。困ったような表情でウボォーがオレに差しだしているのは、今ちょうど探している真っ最中のデカい鍋と泡だて器。


「おお有難う!」

「いや……」


 ウボォーは何故か何かに困惑しているみたいだが、これからオレはプリン作りに忙しい。話は後で聞けば良いだろうと思っていたらウボォーは二度寝すると言って部屋に戻って行ってしまった。まあ、ここにいてプリン作りを見ているより有効的な時間の使用法だろ。

 引っ張り出していた鍋とかをシンクの下に戻してからプリン作りに集中。この場にはプリンにちょうど良いカップなんてなかったから、皆で囲んで食べられるボウルプリンにしようと思う。バニラエッセンスはどうしようもないので今回は諦める方向で。


「バニラエッセンスがないならレモンの皮でも良いんだよな……いやでも、どうせならバニラエッセンスがあれば良いのに。茶色の小瓶――小川の、ほとりの、小さな小屋に、二人は……って歌があったな、そう言えば」


 プリン液をかき混ぜながらため息を吐き、なんとはなしに台所のテーブルを見た。そこには茶色の小瓶が。


「もしかしてお前、いつもご機嫌な魔法の小瓶か?」


 小川のほとりの小さな小屋に住んでいる二人が所有していると言う魔法の小瓶。紅茶に牛乳なんでも出るよと言うんだからバニラエッセンスだって出るだろう。トリップまでしてしまったオレには、もはや世間様の常識など通用しないのだ――とりあえず中身を確認しようと皿に中身を一振りし確認すれば、それはオレの期待した通りにバニラエッセンスだった。もう否定するのも疲れる位にファンタジーだな。


「もしや、これはオレに憑いているメイド系女性幽霊がオレの望むものをこっそり置いていってくれたとか?――ないか。ないな」


 そんな幽霊がいたらお付き合いを申し込みたいわそんなもん。一人でクスリと苦笑いして視線をボウルに戻し、なんとなく台所をぐるりと見回してみる。扉の向こうに見知らぬメイド姿の少女の影。

 ……テイク2。見回してみる。扉の向こうに見知らぬメイド姿の少女の影。

 テイク3。見回してみる。扉の向こうに見知らぬメイド姿の少女の影。ちょ、待て。待ってくれ。何故彼女は透けてるんだ。足が無いんだ。


「……」


 テーブルにそっとボウルを置く。この場にベッドは無いので椅子で代用し、少女を見ないようにしながらオレの知る唯一の除霊法を開始する。


「びっくりするほどユートピアッ!」


 十分後、扉の前を振り向いたオレの目に映ったのはヒソカだった。


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