その05



 兄さんがウボォーギンのベッドで寝入った後。


「そう言えばヒソカ、お前はいつ帰って来た? 確か二日開けると連絡があったはずだな」


 ウボォーギンの話もあるから全員が揃ったままだ。ヒソカの念は便利なものではあるが、複数対一人では確実にヒソカは死ぬ。――メンバーを警戒しなければならないというのは不便ではあるがヒソカの使い勝手は良いため手放し難い。


「ん? もう済んだんだ☆ 時間までうろつくのも良いかなって思ったけど、何か面白そうなことが起こりそうな気がしてね☆ どうやらボクの勘も捨てたものじゃないらしい☆」


 クツクツと怪しげな笑い声を響かせるヒソカに、数名の団員が嫌そうに顔をしかめた。


「そうか。次にウボォーギン、報告しなければならないことがあるんだろう。聞こう」


 座っていたウボォーギンはコクリと頷き、立ちあがるや全員をぐるりと見回した。


「オレは一度、鎖野郎と戦って死んだ」


 目を見開いて彼を見つめるオレたちに、ウボォーギンから語られる鎖野郎の詳細。ノストラードファミリーの一員であり、金髪で中性的な見た目の青年。オレたちが数年前に襲撃した緋の目を持つ一族クルタ族の生き残り。――そして、ソイツが持つ発は完全にオレたちのみを標的としたものであるということ。


「ふむ……ウボォーギン、その小指の鎖によって死んだと言うなら、何故お前は今も生きている?」


 ウボォーギンは兄さんを恩人だと言った。つまりはそういうことなのだろうが、オレは兄さんの能力の一部だけでも知っておかなければならない。兄さんはおしゃべりなように見えるがその実は秘密主義者。本当に大事なことでさえ冗談のように軽く言って相手を攪乱してしまう。お守りだって、気休めでくれたものだと思っていたんだ、始めは。

 だが、実際にはお守りによって死の危機から逃れられることができた。ならばあの冗談めかした言葉は真実だったのではないかと、後になってから気付かされた。魔法使いだという名乗りや魔法の道具という板――子供向けの優しい嘘なんじゃない、全ては真実だったんだ。


「コーヤがオレを生き返らせるまでの経緯はオレには知りようもねぇ。だが、オレは気が付いた時には光に包まれていて、その場には東洋の龍みたいなのとコーヤがいた。コーヤはオレを生き返らせるように龍に願い、龍はそれを叶えた」

「願いを叶える龍? その龍をどうやってコーヤは呼びだしたか分るか?」

「コーヤによりゃ、その龍に会うには七つの宝石ってやつを揃えないとならないんだとよ」


 ウボォーギンの話は、はっきり言って荒唐無稽だ。平時にそんな話を聞かされたなら鼻で笑って捨て置く様な類の夢物語。だが、それを成したのが兄さんだと言うならそれは一気に現実味を帯びる。兄さんに出来ないことはないのではないだろうかと思う程に兄さんは万能だから。

 お守りがその役目を終えた時に居合わせたメンバーは眉間に皺を寄せ、残るシズクやコルトピ、ヒソカは狐に摘ままれたような表情をしている。現実の話ではなく小説の話でもなければ信じられない内容だから当然だろう。


「――シズクとコルトピ、ヒソカは部屋に帰れ。ここからは兄さんのことを以前から知っている者でなければ理解し難い話になる。お前たちは明日に備えて十分な睡眠を取っておけ」

「分った」

「そうするよ」

「ンー、ボクは興味深々なんだけどな☆ 聞いてちゃ駄目かい?」

「夢物語を信じられる柔軟な脳があるなら好きにしろ。だが、オレたちは一々お前に解説をしてやるつもりはない」


 ヒソカは飄々とした表情のまま顎に手を添えて大きく首を傾げ、肩を竦めて「寝ておくよ☆」と答える。マチが嫌悪感を隠さず顔をしかめていたのも理由だろうが、今この場でオレたちの会話から兄さんのことを探るのは難しいと理解したんだろう。


「さて。――兄さんがここに来たと言うことは、近いうちに兄さんの手刀の出番があると考えるのが妥当だと思う」

「単に会いに来たなんてことは?」


 オレの言葉にフィンクスが手を上げたが、それを首を横に振って否定する。


「それを出来るならとっくにしているはずだ。マチはどう思う」

「私は手刀のためじゃないかって思うよ」

「そうか」


 兄さんがここへ現れた理由など本当はどうでも良い。知りたいのは、兄さんが目的を終えた後に元の場所へ帰ってしまうか否かだ。


「手刀で帰るにしても帰らないにしても、お守りを作らせる。それに変わりはないね」

「フェイ、兄さんを道具みたいに言わないで。兄さんはこの場全員の恩人なのよ」


 フェイタンは一見どうでも良さそうに吐き捨てたように見えるが、あいつも兄さんの飯に助けられている。口で言う程のことはしないだろう。だがパクノダはその粗すぎる言葉をたしなめ、少し怒った表情を浮かべてフェイタンを見やった。パクノダはオレに次いで兄さんフリークの気があるからな。


「とりあえず明日はプリンだ。お守りはその次で良い」

「逆だろ逆。お守りが先、菓子が後だ」

「菓子なんて後からいつでも食えるだろ。団長もさっさとあのお守り修繕してもらえよ」

「二人の言う通りだぜ団長」


 ノブナガ、ウボォーギン、フランクリンに口々に反対されてむっと口を引き結ぶが、他のメンバーも三人と同じ意見らしく生ぬるい視線を向けられていた――気力の源だと言うのに。


「ところで、さっきからずっと黙って兄さんのスマホに熱中しているようだが……シャルナーク、何か分ったのか?」


 話を変えたかったためと疑問に思ったための両方でシャルナークに声をかける。脂汗を流しながら兄さんの魔法道具を操っていたシャルナークだが、自分に水を向けられたことでやっと会話の話に加わった。


「――団長、コーヤはこれを魔法道具って言ったんだよね?」

「ああ、その通りだ」


 オレの返事を聞いたシャルナークは引きつった笑い声を上げ、シャルナークから流れる脂汗の量が増える。一体どうしたというんだ?


「これを魔法道具なんて可愛らしい呼び方で呼ぶんじゃ、これの本質は分らないよ。これは悪魔の道具さ、それも、飛びきりの悪魔のね!」


 全員の視線がシャルナークに集中する。


「これを使い続けてて正気を保ててるコーヤって、一体ナニな訳?」


 広間にシャルナークの声が虚しく反射する。誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。


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