その03
人間ジェットコースターに揺られて一時間くらい。つい今日の昼間に読んだ覚えがあるような気がしてならない廃ビル群にウボォーは突っ込んでいく。分ったよ兄弟、認める。ここはハンターハンターの世界だってな。そしてこのマッチョ君はウボォーギンで、サディスト殺人犯はクラピカだと。原作破壊ってして良いのかね、いやもう破壊しちゃってるけど。
階段を五段飛ばしで上って行くウボォーの背中でガックンガックン揺られていたかと思えば、突然の急ブレーキ、そしてウボォーの正面で、曲がったちょんまげの垂れ目が気色満面で両腕を広げてこっちを見ていた。
「遅かったな、ウボォー! 死んだかと思ったじゃねぇか!」
「まあ色々あってな。ちっとばかし全員揃った場で話してぇことがある」
「ふん、お前がそんなこと言うなんて珍しいな――ところでその背中の男は何だ?」
垂れ目の男、ノブナガだろうそいつはオレを観察するような目を向ける。
「オレの恩人だ。それも含めて話してぇ」
「え、寝床は?」
「一時間我慢してくれ」
「マジか」
オレを恩人と聞いたノブナガの視線は優しい物になった。そうだよな、ウボォーの死を一番悲しんでたのがノブナガだもんな。……あれ、そう言えばこのビルのシーンってクロロがいたような気がする。つまりこのまま運ばれていけばクロロ君と再会コース? でもオレの会ったクロロ君とここのクロロ君が同一の存在であるかは分らないし、期待しないでいた方が良いかもしれない。
「ところでさ、そろそろ下ろしてくれないか?」
肩を叩けばウボォーは思い出したようにオレを下ろし、ノブナガのオレを任せて皆を呼びに行ってしまった。
「オレはノブナガ。ウボォーが世話になったみてぇだな」
「オレは幸也。ウボォーを助けたのは本当に偶然のことだったから、助けられて本当に良かったと思ってる。寝床を貸してくれるって言うからついて来たんだけど……まだ寝られそうにないみたいだな」
ついて来いと言われて歩く。ビルの中は夜なのもあって暗いけど、ノブナガが片手に持った蝋燭のお陰で前が見えないことはない。
「一体どこに向かってるんだ?」
「んー……ホールと言やぁ聞こえは良いが、まあダベリ場兼集合部屋だな」
「ふーん。でもさ、そこにオレが入っても大丈夫な訳? ほら、なんかどう見てもウボォーもノブナガも堅気っぽくないし。オレ一般人だし」
「大丈夫だろ。お前はウボォーの恩人だからな――オレたちをマフィアだと思ってんのか?」
「ヤクザっぽいなとは思ってる」
「正直な奴だなお前」
ノブナガはカッカッカと朗らかに笑い、「ここだ」と言って扉を押し開き部屋に入って行く。中は蝋燭で明るい一部を除けば真っ暗でがらんとしていて寒々しい。光の中にはクロロ、パク、マチ、コルトピ。ノブナガの後ろからついて歩くオレにマチが目を見張り、パクが一瞬目を細めたと思えば零れんばかりに目を見開いていく。――そしてクロロは、唖然とした顔でオレを見つめている。もしかして、もしかするかもしれない。
「に、兄さん……?」
オレとクロロの距離が十メートルを切った時、クロロはボソリと呟いた。ノブナガはノブナガで三人がどうしてそんな表情をしているのか分らないと言った顔でオレと三人を見比べている。
「兄さん?」
コルトピとノブナガの声が重なった。
「コーヤ、コーヤ兄さんだろう!」
クロロは表情を輝かせ、一瞬でオレの前までやってきた。
「久しぶりだな、クロロ君」
「兄さん、もう会えないと思っていた――ああ、こっちへ来てくれ。兄さんと会えなくなってからどれほどオレがケーキ屋巡りをしたと思う? オレの仲間を紹介したい。何故ノブナガと一緒に」
興奮のあまり言葉があっちこっちへ飛んでいるクロロ君にどうどうと声をかける。
「順番に話すから落ちつけ。先ず、荒野で偶然ウボォーを助けて、ウボォーが寝床を貸してくれると言うからついて来た。ノブナガといたのはウボォーが話したいことがあると言って他の人を呼びに行ったから、初めに会ったノブナガにウボォーが案内役を押し付けた結果だ。ケーキ屋は知らん」
ノブナガは明らかに年下のオレを兄さんと呼ぶクロロ君とオレを見比べ、そして合点がいったと表情を輝かせた。
「どっかで見覚えがあると思ったら、メシと南瓜プリンの男か!」
「何ソレ!?」
そこにウボォー、フランクリン、シャル、フェイタン、フィンクス、シズク、ヒソカが現れ、シャルが「ああ――!」とオレを指差しフェイタンに胡乱気に見られた。ヒソカはどう見ても一般人でしかないオレに首を傾げている様子だ。
「超絶守護の人じゃん!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ黒歴史ぃぃぃぃぃ!! てかアレが読めたのかよ!?」
「あれジャポンの文字でしょ? 崩し字の一種だったから読めたよ!」
なんてことなの!! ノブナガも「オレも読めた」とか言わないでくれ!
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