その02



 どこだここ。右を見ても左を見ても、見渡す限りの荒野だ。誠に有難いことに人の姿は全くない。一歩進んで二歩下がってみた。何も解決しなかった。あばばばばばばばばば。


「なんなの、最近のオレってばファンタジー過ぎる展開なんて許容範囲越えてるんだけどもう止めて、私のライフはもうゼロよ……」


 さっきまでは夜の暗がりだったはずが、今はとっても明るい昼間だ。そろそろ帰宅して寝るつもりだったオレには光が目を刺すことこの上ないし、雑草もない荒野は乾燥してて喉渇くし、この恰好だと暑いし、気力は湧かないし。


「うがあぎあぎぎ!!」


 と、どこかからそんな声が聞こえてきた。どこかのマッチョマンが重量挙げでもしてんのかな? ただでさえセーターで暑苦しいってのに、視覚的にも暑苦しくして欲しくない。――って、第一村人の声じゃん!


「うぎぎぎギがぁギグ――ぬぅがぁああかあぁ!!」


 とてつもなく苦しそうな声だが、第一村人は人類の限界に挑戦しているのかもしれない。でもそろそろ人間として発話してくれないかな。理性ある人類とは思えない力み声だから、声の聞こえた方向に歩いてるオレは心配になってきちゃったよ……もしかしてここはロープレみたいな世界で、叫び声を上げてるのがオークとかトロールなのかもしれないって思えてさ。

 声の元へ着くにはあと二十分くらいかかるか? どうやら高台にいるらしいオレの元には声が届きやすいというものあるが、第一村人の声がかなりデカいから遠くても届く。二キロ離れてるって思うとかなりの距離だな。

 着いた。とてもグロテスクと言うか一方的かつ執念深い私刑が行われていたので、怖くなって「オレは空気オレは空気」と唱えながら小さくなって隠れながらそれを見守る。まさか殺したりしないよな? なんか金髪の中性的な顔の美人さんが、毛深くて原始人っぽいマッチョマンな男を鎖で雁字搦めにしていたぶってるんだけどこれ止めた方が良いの? まあ、例え止めた方が良くても怖くて口を挟めないんだけどね!

 崖の上からプルプルしながらそれを見続け、美人さんはなんとも恐ろしいことにマッチョマンの胸に細い鎖を刺して殺してしまった。マッチョマンを埋めた後はスコップを放り投げて車に乗り、どこかへ去っていってしまう。何あのサディスト、サディストなだけじゃなくて殺人犯にもなっちゃったよ!? ちなみに言葉攻めらしきものは耳を塞いで聞きませんでした。

 ドエス殺人犯が去った後、こそこそと下へ降りる。こんなところに埋めるなんて可哀想に、墓標だって立てられないじゃないか。というわけで掘り返そう!!――睡眠不足&ドエス殺人犯への恐怖で、この時のオレはテンションがおかしかった。後から考えるとかなりおかしかった。

 何故かここに来てから体がかなり軽いんで、サクサクと原始人的マッチョマンを土の下から取り出すことができた。頬を突いて「生きてますかー?」と聞いてみる。返事はない。胸に耳を当ててみる。返事はない。


「返事がない、ただの屍の様だ――どうしよう!」


 あの美人さん、マジで殺人犯じゃないか!!


「えーっと、兄弟、オレたちの冒険はこれからだろ? 見た目的にカメハメ波撃てそうなのになんで復活しないんだ。こういう時は神龍が現れて『願い事を一つ叶えてやろう』って言うんだろ?」


 そう言った途端、星空の輝く空が眩しい程に明るくなった。空から下って来る龍……は?


『願い事を一つ叶えてやろう』

「なんなのこのドッキリ壮大すぎる!!」

『願い事はなんだ?』


 畳みかけるように訊かれても、この場でとっさに出てくる願い事なんて一つしかないだろ。殺人事件の被害者を前にして『大金持ちになりたいです!』なんて言える奴がいたらソイツは犯人だ。


「えっと、このマッチョマンを生き返らせてくれ!!」

『その願い、受け取った』


 何故か輝きだすマッチョマン――どういうことだ、このマッチョマンは実は死体じゃなくて発光ダイオードで出来てたのか? 何それ気色悪い!!

 そして光が収まった時、マッチョマンはばっちり目を開けてオレを見ていた。無機物が有機物に――壮大なマジック! 心の底からドッキリしましたテレビカメラはどこだ。龍はニコリと笑むと、何故かオレに親指を立ててから再び空へ帰って行った。


「なあ」

「あ……はい」

「今の、何なんだ?」

「見た目的に言えば、七つの宝石を集めると何でも願いを叶えてくれる龍、みたいな?」

「知り合いなのか?」

「いいやまさか、初めて会った」


 気が付けば二人して正座していた。どうやら生き返ったらしいマッチョマンはオレが神龍らしき何かに言った言葉を何らかの形で知覚していたらしく、深々と頭を下げて礼を言ってきた。いや、目の前に死体があって、願い事を一つ叶えようと言われたらほとんどの人間が「この人を生き返らせてあげて」って言うと思うんだ。


「あんた、良い奴だな! オレに出来ることなら何でもすんぜ」

「え? なら街に連れてってくれないか? 実は迷子なんだオレ」

「良いともよ! あ、だけどその前にあんたをオレの仲間に紹介してぇな。オレの恩人だって」

「え、そんなこと良いよマッチョ君」

「マッチョ君ってオレか――まあ良いけどよ。アジトに行きゃあメシも酒もあるし、来いって!」

「アジト? それよりオレ凄く眠いんで今すぐ寝たい」

「なら寝床あっから!」

「え、じゃあ遠慮なく」


 オレを背負って走るマッチョマンと遅すぎる自己紹介をしたら、何と彼の名前はウボォーギンと言うらしい。……え? あれっ?


3/31
*前次#

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -