五歳の妹を十二歳のクロロと眺めた



 今日のクロロ君は十二歳になっていた。いやさ、なんかさ、クロロ君ね……ハンターハンターのクロロ・ルシルフルにそっくりになってきたんだけどどうすれば良いの。DQNネームじゃないのもしかしてコレご本人様なの? 嫌だそんなファンタジー、オレは信じないからな。


「クロロ君、君は子供向けのプリンで満足してしまってはいまいか……? 本当のプリンというものを教えてやろう! これが本当のプリンだ!!」

「今までオレが食べたプリンは本当のプリンじゃないだと!? どういうことだ、お兄さん!」


 目を見開いて詰め寄るクロロ君に落ち付けと手を振り、冷蔵庫から出した南瓜プリンをテーブルにことりと置いた。ふっふっふ、これはここ数日おやつがプッチンなプリンばかりなことに飽きたオレが、昨晩調子付いて作ってしまった南瓜プリンなのだ!! カラメルはほろ苦で大人の味。


「お、美味しい」


 調理学校へ進学したらどうだと家庭科の先生から言われるほど、オレの菓子は美味い自信がある。何故か麻耶ちゃんは「お兄ちゃんの作ったお菓子なんて嫌い」って言ってオレを泣かせるけどね!


「お兄さんって料理もお菓子も上手だよな」

「麻耶ちゃんのために頑張ったからなぁ……『お兄ちゃんの作ったお菓子だぁい好き』って言って欲しくて勉強したんだけど、当の麻耶ちゃんはあの状態だからなぁ」


 グングン育ってしまって、もう麻耶ちゃんとお話しするよりオレと話す方を好むようになったクロロ君。麻耶ちゃんはオレがクロロ君を取ってしまったことにむくれてしまい、こっちを見てくれもしない。お兄ちゃんが悪いのかな……お兄ちゃんは寂しいよ。


「お兄さんは本当にマナが好きなんだな」

「ああ、そりゃあね。十三の時に生まれた妹だから、オレが守ってやんなきゃって思ったよ。麻耶ちゃんを泣かせる餓鬼は殴って制裁しようとか、麻耶ちゃんが喜ぶにはどうすれば良いかなとか色々考えた」


 湯のみを持ち上げ、緑茶をずずっと啜る。制裁の下りでクロロ君は苦笑いしたが、当時のオレは真剣にそんなことを考えていたのだ。

 話している最中もスプーンが止まらないクロロ君は、まだオレが食べてない南瓜プリンに手を伸ばした。まだ冷蔵庫にあるし気にせずやれば、クロロ君は嬉しそうに礼を言う。十二歳にもなるとだいぶん顔も大人びてきて、睫毛も長いし瞳は杏仁型で綺麗だし鼻筋も真っ直ぐに通ってるし……美点を上げればキリがない。将来はあの漫画のクロロみたいな美形になりそうだというかそのものになりそうだ。もしかしてもしかするんだろうか? やだそれ怖い。


「だからクロロ君、君に麻耶ちゃんはやれないからな覚悟しろ」


 そう言ってギラリと睨みつけたら、クロロ君はポカンとしたと思えば大笑いし始めた。笑いすぎて涙を流しながら「今のところそういう相手を欲しいとは思ってない」と言い、また笑い始める。テーブルに突っ伏してピクピクと震えるもんだからちょっとムカついて手刀をその頭に落した。テーブルとオレの手で二度の衝撃を受けたクロロ君は蛙が潰れた様な声を上げ、今度はオレが声を上げて笑った。


「お兄さんの手刀、凄く痛い……」


 涙目のクロロ君に対し、腕組みをして頷いてやる。


「そりゃそうだ。オレの手刀はかなり痛いことで有名だからな」


 大学に入学してすぐの時、入学式で知り合った女子がしつこすぎるサークル勧誘に遭っていたのを手刀で撃退したという実績もある。そして付いたあだ名がミスター手刀……それはあんまりだと思って泣けた。


「ないとは思うが、クロロ君ももし何かあったらオレを呼びなさい。オレが追い払ってあげよう」

「それは、手刀で?」

「手刀で」


 二人して顔を見合わせて、今度は一緒に笑った。

 四時になって、クロロ君を帰す時間になった。今日クロロ君に持たせるのはいつも通りの乾パンにクッキー、お古の服。そしてオレの手作りプリンだ。オレがプリンを紙袋に詰めてるのを見たクロロ君のはしゃぎようったらなかった――お前はプリンフリークかと言いたくなる程の熱狂ぶりで、リアルに踊って喜ぶ人間の姿を見たのはこれが初めてだ。まさしく狂喜乱舞。


「……じゃあ」

「おう。元気でな」

「有難う。また」


 マナちゃんが「ほとんどお話できなかった」とむくれるのを宥めながら、空気に解けて消えて行くクロロ君を見送る。

 明日は十三歳になってるんだろうなぁ、ファンタジーまじで勘弁して欲しいなぁ、クロロ君は良い子だけどそれとこれは別っていうか、うん。――明日のために、今晩はチョコレートプリンを作っておこう。とりあえず。


8/10
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