五歳の妹と七歳のクロロを遊ばした・上



 子供向けアニメを見てはしゃいでる麻耶ちゃんをほのぼのとした気分で見ながら緑茶を啜っている時だった。昨日と同じく叩かれる扉、クロロ君が来たと瞳を輝かせる麻耶ちゃん――麻耶ちゃんの将来の夢はパパのお嫁さんじゃなかったっけ? クロロ君のお嫁さんになるなんてお兄ちゃんは許さないよ。


「はいはーい」


 ガチャリとドアを開けば、やっぱり昨日あげたはずなのにかなり無残なことになっている服を着たクロロ君が立っていた。餓鬼臭い顔から少年顔へチェンジしています有難うございました! どうみても昨日の顔とは大違いですイヤッフー!


「お久しぶりです!」


 薄汚れたと言うより汚れまくった顔を輝かせて声を張り上げたクロロ君をとりあえず風呂に連れて行く。麻耶ちゃんは後でね、先ずはクロロ君がお風呂に入ってから遊んでもらおうね。

 風呂場でわしゃわしゃとクロロ君の頭を洗っていると、クロロ君が「そういえば」と前置きしてオレの年齢を聞いてきた。


「ん? オレの年齢? 永遠の十八歳☆」


 永遠に十八じゃ酒飲めんけどな。

 体を磨きあげた後はやっぱりオレのお古を着せてやる。美少年って羨ましいな、脚も長いし。――くそう、ハーフは優性種だとでも言うのか? そんなのオレは認めたくない認めない! 犬も雑種の方が頭の良くて体も強いって聞いたことあるけどね!


「今日はクロロ君の希望を聞いてやろう。昼飯に食いたい物があれば言いたまえ」


 ハンバーグでもカレーでも作ってやらんこともない――そう脱衣所で胸を張れば、「プリンが食べたいです!」とクロロ君が声を張り上げて主張した。馬鹿者プリンはデザートだ。

 肉料理は育ち盛りの健康な子供には良いかもしれないが、なんかとっても過酷な生活を送っているようにしか見えないファンタジー界の住人クロロ君にはガッツリ肉系は食べづらいかもしれない。ならばどうやって動物性たんぱく質を摂取させるか――答えは簡単、肉団子のスープと若鳥の甘酢かけにすれば良い。昨日の肉がかなり安かったんで多めに買っていたのが役立つな。そうだ、明日は天津飯にしよう。

 脱衣所から出て麻耶ちゃんを呼べば、今か今かと待っていたんだろう、居間から麻耶ちゃんが飛び出して来た。が、麻耶ちゃんの姿を目にした瞬間クロロ君は目を見開いた。


「マナ、君、縮んだ?」

「えー? くろろくんがおっきくなったんだよー?」


 麻耶ちゃんはどうやら、クロロ君が一晩ごとに大きくなっていくのなんて気にならないらしい。オレは「ドッキリなら後で出演料もらえないかな」って諦めてるから受け入れられてるんだが。ファンタジー認めたくない。漫画なら受け入れられても現実に起きたらホラーでしかない。


「マナ、君は七歳……だよね?」


 クロロ君は震える声で麻耶ちゃんに訊ねた。麻耶ちゃんがきょとんとした表情で「まなは五歳だよ?」と答えると、クロロ君の顔が音を立てて真っ青になって行った。救いを求めるようにオレを振り仰ぐクロロ君だがオレは誤魔化し笑いしか出来ない。これはドッキリ、これはドッキリ、これはドッキリ……。


「麻耶ちゃん、今日のお昼ご飯は肉団子のスープだよ」

「おやさい、はいってる?」

「入ってるよ」

「おにいちゃんのばーか! 大きらい!」

「何故にっ!?」


 ドタドタと居間へ走って行った麻耶ちゃんは、扉の影から顔だけ出してあかんべーと舌を出した。うちの妹ってば何しても可愛いマジ天使。


「ごめんなクロロ君、麻耶ちゃんと遊んでやっててくれるかな? オレは昼飯作んないといけないから」

「あ……はあ、はい」


 気の抜けた返事でも返事は返事。口をあんぐりと開いたままのクロロ君がガクガクと頷いたので良しとする。


「くろろくーん! はやくー!」


 麻耶ちゃんがクロロ君を大声でよばい、クロロ君は操り人形のように居間で去って行った。


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