仕方ない、認めよう。昨日別れてから今日会うまでの十数時間の間に、クロロ君の時間は一年進んでしまったのだと。


「全然変わらない……」


 クロロ君は、家をぐるっと見回して泣きそうな声でこう言った。そりゃ変らんわ、昨日の今日だぞ。


「くろろくん、遊ぼ?」


 麻耶ちゃんがクロロ君の上着の裾を引っ張って遊びに誘い、二人は一緒に絵本を読み始めた。麻耶ちゃんは頭の良い子だからな、もうひらがなとカタカナの読みは全てマスターしているのだ! 流石麻耶ちゃん!


「くろろくんにはこれ、はい!」

「ごめんね、この文字は分んないんだ……」

「それならわたしがおしえてあげる!」


 ニコニコ笑顔でクロロ君に絵本を差し出した麻耶ちゃんだが、クロロ君は申し訳なさそうに眉をハの字にした。麻耶ちゃんはキラリと目を輝かせる。

 オレも使った覚えがある五十音表をテレビの横から引き出して張り切って文字を教え始めた麻耶ちゃんと、それに真剣にかじりつくクロロ君。平和だな……クロロ君の存在がファンタジックであることを考えなければ、どこにでもありそうな光景じゃないか。

 途中だったラーメンは麺が既に残念なことになっているので泣く泣く破棄。餃子は焼くだけだから問題ないが、メインをどうしよう。そういえばそうめんが残ってなかったかな……にゅうめんにしてネギを放り込めば良いだろ。

 というわけで、ちょっと遅めのお昼はにゅうめんと餃子。三時のおやつはピーナッツ煎餅だ。


「おせんべいなんてイヤ! まな、お兄ちゃんが作ったお菓子、きらーい!」

「何で!?」


 美味しいのに。愛情をたっぷり込めてるのに何で!?


「お兄さんのお菓子、ぼくは好きです」

「君は良い子だなぁクロロ君……」

「でも、あの大きなプリン、もう一度食べたいなぁ……」

「今度来た時にはまた作ってあげるよ」

「本当に!? 楽しみ!」


 何この食い付き方の違い。さっきのフォローがぶち壊しだよクロロ君。

 ――とまあ、こんな感じでまったりと時間を過ごしたわけだが、そろそろ四時になりそうだ。クロロ君に昨日上げた服はもうボロボロだから別のを出さないとならんし、乾パンやクッキーも必要だろう。子供用のリュックサックがあったからそれに服と乾パンとかを詰めて渡せば、クロロ君はくしゃりと顔を歪ませた。


「お兄さん、ありがとう……」


 泣きそうになりながらお礼を言うクロロ君に、なんかオレがまるで悪いことをしたかのような気分になってしまった。ちょ、泣かないでよ麻耶ちゃんが睨んでくるんだけどお兄ちゃん悪いことなんてしてないよね!? それともオレって何か悪いことしたの、オレの自覚がないままで!

 ぐすぐすと泣きながら雪の道を去っていくクロロ君の姿は、昨日と同じように、空気に溶けるようにして消えた。駄目だファンタジー着いて行けない。そうだプリン作ろうプリン。プチンとする某プリン。ホラきっと明日も来るさ、今度は七歳になってさ、ハハハうけるーそんなこと起きるわけないしぃー。

 ひたすらプリン液の表面を見つめ続けるオレは、どうやら麻耶ちゃんには不評というか「お兄ちゃん不気味!」だそうでした。涙腺ってこんなに簡単に緩む物だったっけか。


4/10
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