五歳の妹と六歳のクロロを迎え入れた・上



 クロロ君という起爆剤がいたお陰で、オレと麻耶ちゃんの間に流れていた堅苦しい空気は消えた。有難うクロロ君。親父が朝六時に仕事へ行ったのを見送り暇だったので、なんとなくピーナッツ煎餅を作ってみた。焼き立てマジでうめぇ。麻耶ちゃんが起きてきたら麻耶ちゃんにもあげよう。最近のお菓子に慣れた麻耶ちゃんが喜ぶかは知らんけど。ポッキーってプリッツにチョコ塗っただけじゃん……なんであれが好きなの? てか、オレが作ったポッキーもどきには見向きもしないってどういうことなの。

 去年お袋が町内会の親睦旅行で静岡に行った土産である緑茶を淹れ、ピーナッツ煎餅と合わせてズズッと啜った。平和だ……床下の蓄熱暖房機が頑張ってるから足元から暖かいし、今日は家から出たくない。でも待て、確か今日はマリームの詰め替え用が105円じゃなかったっけ。いつもは210円のバナナクレープも105円だったはずだ。仕方ない、バイク出すか。

 新聞と広告を突っ込んでる袋から広告を探し出し、赤いマッキーで買うべき商品に丸を付けて行く。鳥の胸肉が安いだと!? ううむ、今晩は若鳥の甘酢かけにするか、それとも炊き込みご飯にするか――麻耶ちゃんが酸っぱいの嫌いって確か言ってたから炊き込みご飯にしよう。キンキを焼いて、あとは小松菜のお浸しと味噌汁にするか。

 広告を折りたたんでポケットに入れ、財布とエコバックを持った。麻耶ちゃんを起こしてから行こう。


「麻耶ちゃん、朝ですよ」


 まだ小さい麻耶ちゃんは親父とお袋と三人で川の字で寝ている。麻耶ちゃんが小学校高学年になる頃には、今のオレの部屋が麻耶ちゃんの部屋になってるんだろう。――正月休みとかに実家に帰っても寝る場所がない、なんて悲しいことになりそうな予感がする。


「うー……」


 布団の中でゴロンゴロンしてる麻耶ちゃんを起こし、ご飯とお味噌汁とふりかけをテーブルに用意してあげてから家を出た。麻耶ちゃんの最近のブームふりかけはおとなのふりかけらしい。背伸びしたいお年頃なんだろうか。

 九時半開店のスーパーには、まだ開店前だというのに、オレと同じようにマリームとかバナナクレープとか鳥の胸肉狙いなのかもしれない奥さんたちがスタンバっていた。だがマリームはお一人様二個限り、この人数で取り逃がすことはない! ちなみにレジには二回並ぶよ当然だろ。

 見事マリームを四袋とバナナクレープ、鳥の胸肉を入手した後、店内はもうじっくり見て回ったから買う物もないのでさっさと家に帰った。あれ以上いたらベーキングパウダーとかふすまを買ってしまうところだったぜ……。全く、スーパーの魔力ってのは恐ろしい。

 帰宅すれば十時半で、しかしオレがおやつとして置いておいたピーナッツ煎餅は一枚も減っていなかった。お兄ちゃんは悲しいです。

 さめざめとこの世の世知辛さに涙を流しながら今日の昼飯である味噌ラーメンwith餃子を作っていたら、チャイムがあるというのに、玄関扉を叩く音がした。おいおい何がどうしたんだ。


「はいはいどなたですかー」


 麻耶ちゃんには奥に引っ込んでいるように言って玄関を開けに行けば、なんかクロロ君っぽいんだけど見た目的な部分で大幅な改変がなされているような気がする少年が立っていた。あれ?


「ひさしぶり、です。覚えてますか……クロロです」

「……はい?」


 クロロ君は麻耶ちゃんと同じくらいの身長だったはずだ。


「や、やっぱり覚えてませんよね。もう一年も経ってるんだ。すみません、ぼく帰ります……」

「いやいやいや覚えてる覚えてる昨日のことのように覚えてるよクロロ君、どうぞお上がりでも最初にお風呂に入ろうか」


 これは一体どういうことなの。昨日のクロロ君をちょっと成長させた様にしか見えない少年が、昨日オレがあげたはずの(でも、ずっと着たきりすずめだったみたいにボロボロになってる)服を着て、昨日オレがあげたはずの(でもボロボロになってる)鞄を背負って、この家にやってきた。そしてクロロ君の中では昨日から既に一年が過ぎているということになっている。何そのファンタジー設定。これってドッキリだよねカメラはどこだ。

 昨日よりも五センチ以上は背が高くなってるクロロ君(もどき)を見て「クロロ君また来たのね」と嬉しそうな麻耶ちゃんにしょっぱい気持ちになりながら、彼のお風呂を手伝った――だってとっても汚かったんだから仕方ない。昨日「あ、こんなところにほくろがあるのか、本人からは絶対に見えねーな」と思ったのと同じところにほくろがあるのを見て、またしょっぱい気持ちになった。嘘だろ誰か嘘だって言え。

 頭をワシャワシャ洗ってやっていたら、クロロ君が顔をクシャクシャにして泣き始めた。何なんだよオレも混乱してるのよ? オラ泣くなよお兄ちゃんが肩貸してあげるからホントお願いだから泣きやんで。


3/10
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