薄汚れた子供はクロロ・ルシルフルというらしい。誰だ、子供にそんなDQNな名前付けたの。漫画キャラの名前付けるなよ、可哀想だろ。高校からの友人に小泉今日子って名前のヤツがいたんだが、いつも「キョンキョンって呼ぶな!!」と怒鳴り散らしてたからな。

 ハンターの漫画、アパートに持って行っておいて本当に良かった。もしクロロ君がうっかり漫画を読んでしまったとしたら、その衝撃は半端ないに違いない。

 閑話休題、クロロ君を風呂に入れたらお湯が真っ黒になった。浴槽の湯じゃないぞ、シャンプーを流したお湯が、だ。髪がシャンプーで三回洗って、体は――申し訳ないが、一度目は垢すりではなく雑巾に石鹸を付けて体を洗った。大丈夫だ、この雑巾、タオルから雑巾に格下げされたばかりのだから!

 全身を磨きあげたクロロ君は、将来が楽しみな美少年に大変身した。なんだこの黒曜石のおめめは。なんだこのサラサラで手触りの良い髪は。透き通るような肌ってこういうのを言うのか初めて知った。そしてクロロ君が着ているのはオレのお古だが、キャラクターモノはお袋が好かなかったお陰で流行り廃りのないデザインの服だ。美少年が着るとこんなにも違うのか、と昔のオレを思い出して少し切なくなった。

 胃が小さくなっているだろうクロロ君にチャーハンは辛かろうということでおかゆを作り、梅は酸っぱすぎるかもしれんからユカリを上からふりかけて出した。


「これ……ぼく、の?」

「ああ」

「良かったね、くろろくん!」


 オレたちが笑顔だからだろう、クロロ君は恐る恐るレンゲでおかゆを掬い口にした。そして輝く表情。おお、可愛いじゃないか。

 嬉しそうにはふはふとおかゆを食べるクロロ君を見ながら昼食を食べた後、麻耶ちゃんとクロロ君は二人で仲良く遊んだ。麻耶ちゃんも同い年のお友達が出来て嬉しいようで、いつも以上にテンションが高い。

 そんな二人を横目に色々と用意をする。先ずは手紙――この年齢であれば施設への入所も考えてもらえるかもしれないし、戸籍がない状態でい続けるのはクロロ君の将来に良くないと思う。クロロ君の両親が何故この状態で良しとしているのか分らない限りどうとも言えないし、まだ十八の若造に言われるのは腹が立つかもしれんが、彼の将来について思うとなぁ……。所詮は他人のお節介でしかないが、何もしないというのは憚られる。

 手紙以外にはオレのお古の服を数着と乾パンとかクッキーの入った缶を、これまたオレのお古の鞄に入れる。賞味期限が近いとかで安売りしていたのを、安売りに弱いオレが大量購入してしまったものの一部だ。だって賞味期限はまだ二年あるのに、新しく入荷した分の賞味期限が四年先だからって言うんだ。これは買わなきゃ損だと思うじゃないか。

 そして、三時のおやつとして某プチンとするプリンの素で作ったパーティサイズプリンを出した。普通のプリンを作れなくはないが、麻耶ちゃんにはプッチンの方が好評だったんだよな。十三歳で出来た妹のために「女の子ってお菓子が好きだよな」とか「お兄ちゃんの作ってくれるお菓子大好きって言ってくれるかなウヘヘ」とか考えながらお菓子作りの練習をしたオレの苦労は、今のところ報われたことがない。


「これ、何?」

「プリンっていうおやつだよ」

「プリン、とってもおいしいのよ」


 巨大な黄色い塊を見てクロロ君は悲鳴を上げた。今までにこれを見たことがないのなら、何か分らず困惑するのも当然かもしれん。それにこれは普通のプッチンの十倍のサイズだ。クロロ君は完全にプリンに圧倒されている。

 だが、麻耶ちゃんが太鼓判を押したからだろう。クロロ君はおそるおそると言った様子でプリンを口に運んだ。そして目を見開きオレとプリンを見比べ、何と表現すれば良いのか分らないんだろう、目をキラキラさせながらなんかボディーランゲージで感動を表現している。クロロ君、本当に可愛いな。

 それから四時になるまでまったりと過ごした。十一月も後半となれば、ただでさえ日の入りが早いここらはもうすぐ日没だ。クロロ君に、先に用意していた鞄を持たせて送りだす――オレに出来そうなことはした。また明日来てくれれば麻耶ちゃんも喜ぶだろうし嬉しいが、クロロ君を取り巻く環境はそれが叶うものではないように思える。


「クロロ君」


 帰りたくない様子で項垂れるクロロ君に、しゃがんで視線の高さを合わせて話しかける。


「またおいで。待ってるから」

「……うん……ありがと」


 泣きそうなクロロ君の肩をポンポンと叩き、一度ぎゅっと抱きしめてから解放する。またいつでも来てくれれば良い。きっとまた来てくれるだろう。そう思いたい。

 去っていくクロロ君の背中はどこか儚げで、オレの目の錯覚かもしれんが、空気に溶けるようにして消えて行った――目の錯覚だ目の錯覚。視力落ちたかな……。


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