02
「困ったな、これ以上絞ったらボクが干からびてしまう」
本当に困った……。さっきからスポーツドリンクで吸収率の高い水分を摂っているけど、このままだと補給が追い付かなくてミイラになってしまう。
「キミ、何? 知らない毒なんだけど――」
体が痺れると眉根を寄せる黒髪の青年に、ボク独自の毒だから知らなくても当然だと答える。
「キミ独自の? どういうこと」
「それは企業秘密だよ。それで、キミは何故ボクに襲いかかってきたのかな、イルミ・ゾルディックさん?」
見当は付くけどね。
「キミの暗殺依頼が来たから。――オレの名前知ってたんだ?」
部屋に帰る廊下で、背後から鋲を投げつけられて始まったボクとイルミの戦い。廊下の壁は鋲と毒で穴だらけだ。職員は始めこそ止めようとしたけど、巻き込まれては命が危ないと悟ったんだろう、遠くで人避けをしているみたいだね。
「そりゃあ両手で余るほどの恨みを買ってきた自覚があるからね。それと、ボクに勝てる可能性があるのはゾルディックだけだから」
でもそのゾルディックも、ヒソカの玩具でしかない。僕たち七人の中で一番強いのがヒソカだ――ボク相手に苦戦しているようではヒソカを殺すなんて無理だろう。
「ふうん。それともう一つ質問して良い?」
「どうぞ」
「何で姿が変わったの?」
「企業秘密、と言いたいところだけど、それだとヒソカがつまらないだろうから教えてあげよう。ボクはヒソカの一部で、キミの考えるヒソカもまたヒソカの一部でしかない」
「謎かけ――解けってことか」
「うん。頑張って解いてね」
こんな平和な会話をしつつもボクたちは常人の目には止まらぬ速さで攻撃し防いでいる。
「――ベースのヒソカの半分をキミが、もう半分を僕のターゲットであるヒソカが分割してるってこと?」
「惜しい。でもまあそう考えてくれて問題ないよ」
さすがイルミ、思考が柔軟だ。ボクは微笑んだ。
「さて、どうする?」
ボクはイルミの喉にナイフを押し当てながら訊ねた。命を握られてる中質問できるその精神力には感嘆するしかないよ。
「今日のところは引くよ。――それと、依頼人の名前は明かせないけど、教えてくれたお礼に一つオレも教えてあげる。キミが一月前に壊滅に追い込んだマフィアだよ」
「ほぼ答えを言っているようなものだね。有難う、次に会う時はゆっくりお茶を飲みながら無駄話でもしたいね」
「うん。じゃね」
イルミの喉元からナイフを離し、手を振って別れた。さて、この惨状――弁償するのはボクなのかな。破壊された自動販売機と、床に転がるスポーツ飲料のペットボトルを見て、思った。よし、逃げよう。どうせ見られたのはこの姿だけだ。さて、他の六人の誰が一番穏健派か……リナリー?
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