六日目の今日はリハンが頬を真っ赤にしてやってきた。


「鈴! 鈴の言うとおりにしたらもみくちゃにされたんだぞ、どうしてくれる!」


 責任とれ、と恥ずかしさや照れで怒鳴り散らすリハンになま暖かい気持ちになった。どうやって責任を取らせるんだろう?


『喜んでくれたんでしょ?』


 五日も書き続ければ慣れるもので、サラサラとそう書いた私にリハンは真っ赤な顔のまま「そうだけど」と叫んだ。


「そうだけどよ、あいつらいちいち大げさなんだよ!」

『嬉しかったからだよ』


 唸りながら地面を転がるリハンについ笑ってしまう。年齢相応で可愛い。


『ところで、その包みの中身は何?』


 指さし訊ねれば、中身は饅頭だった。できたてらしくほかほかだ。


「鈴のこと話したらよ、持ってけって言われた」

『そっか。有り難うございますって伝えといてくれる?』

「わーった」


 久しぶりに食べる朝御飯に自然と顔がほころぶ。温かくて甘くて美味しい、優しい味。

 茶筒に持ってきたお茶も飲みつつ、気づけば二つ食べてた。ちょっとお腹が重いかもしれない。


「残りは八つ時だな」


 四つ残った饅頭の一つは私の袂に入れて、残りはリハンの懐の中。ここは神社だけど『四=死』を避けようとしてか自然にそうなった。

 どこからか視線を感じて周囲を見渡せば、神社なのにお坊さんの格好をした禿頭の妖怪が物陰から私を見ていた。リハンの護衛だろうか? ペコリと軽く頭を下げれば目を丸くされた――小鬼が理性的な対応をしたら驚くのも当然だけど、なんだか少し心が痛かった。横で指を舐めてるリハンを見上げれば首を傾げられる。何でもないと頭を横に振って小筆を取り上げ、今日も知識を掘り返すことに熱中する。


『今日はそうだね、廚が東側や北側にあるわけについて話そうか』


 人間の目には青にしか見えないけど、朝の光は紫だ。これは朝日に含まれる紫外線が強いからで、強い殺菌力を有している。対して日の入りの光は赤く、赤外線が強い。赤外線は菌の繁殖を促してしまうから、食べ物を置く台所は西側に作れない。


「じゃあ光が当たらないようにすれば良いだろ」


 東側や北側は寒いだろうと言うリハンに苦笑する。家について詳しくないから言えることだし。南側に廚を持ってくれば自然と部屋は北側に置かれることになる。夏場は良いとしても冬場は寒い。日の当たる南側に部屋を作らないと凍えるだろう。


『昔から「そう」あったものは、そうある原因があるんだよ』

「ふーん」


 リハンは口をへの字に曲げて鼻を鳴らす。そしてごろりと床に転がった。


「鈴は、さ」

「キ?」


 紙を見てないリハンには声で答えるしかないから、なるべく訊ねるような声を心がけて発した。


「小鬼なのに頼り甲斐があってさ、強くて頭良くて。羨ましい」


 私はなんだか切なくなった。リハンはまだまだこれからの年齢で、これからどんどん吸収していくはずだ。だけどそれが分らないくらい視野が狭くなってるんだろう。だって私は言ったのだから、寺子屋で十年以上学んだ、と。まだ若いリハンが追いつけてるはずがないんだ。

 まだ白い紙に筆を滑らす。


『私はリハンの倍の時間を生きてて、その半分を学ぶことに使ったからね。リハンは今、学んで力を付ける時期なんだよ。きっと』


 リハンの顔に紙を押しつければ、リハンはイヤイヤと顔を振って紙を手に取った。


「そういや鈴はそれでも年上だったっけ……」


 チラリ、と私の身長を見分したリハンの顔に馬鹿と書けば、くすぐったかったのかクスクスと笑い声を上げる。と、何か書かれているということを思い出してか顔色を変えた。


「って、鈴! オレの顔に落書きしたな!!」


 なんて書いたんだ、と詰め寄るリハンに馬鹿と書いたと教えれば、てめぇと怒りだしたリハンについ笑ってしまう。しかえしだと言って組紐で髪を結わえられ、小鬼の特徴である角を髪と一緒に結わえられてしまう。結構痛いんだけど……。


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