ネギ様・下



 それから私達は枢木家にどうにか連絡をつけて、開戦の前にどうにかルルーシュとナナリーを返してもらえないかと交渉した。が、向こうは人質として使う気満々らしくすげなく断られた。工作員を派遣して救出――開戦の理由になること間違いなし。人質交換――誰も身代わりになどさせたくない。悩む私にシュナは明るい調子で言った。


「父上の弱みと交換しては? たとえば洗脳で人を従わせている、とか」

「それだー!」


 しかし、時、既に遅く。再び交渉のテーブルを設置するため日取りの擦り合わせを行っていた私達を嘲笑うように、父上の宣言により三日後に開戦が決まった。る、るるぅしゅぅ!! ルルーシュがまだ日本にいるというのに! あのクソジジイ何考えてやがるんだ滅多刺しにすんぞ! 明日の日の出を見られなくなりたいようだな白髪ロール!

 というわけで、どうせ開戦するのだから気にすることはあるまい、と工作員を派遣することになった。私の身体能力について来られる者だけで構成されているからかなりキチガイじみた部隊だ。コゥには「姉上はもはや新人類ですね」って言われた。褒めてるのか貶してるのか。

 そしてやって参りましたるは東京の枢木邸。そこへ忍者のごとく忍びこんだ私の目に、枢木ゲンブが日本刀でナナリーを殺すと宣言している姿が飛び込んできた。待て待て待て、ナナリーを殺すとか信じられん。あんな可愛い子を殺そうだなんて人間のできることじゃない。枢木ゲンブ、貴様は父上並みに人間を捨てているぞ!


「止めて父さん!」


 確か枢木スザクだったか、ゲンブの息子が悲鳴をあげる。それを合図に屋根裏から飛び降り後ろから枢木ゲンブを殴って昏倒させ、呆然と口を半開きにするスザク少年可愛いな弟にしたいな。じゃなかった、彼の前に膝を突いてルルーシュの居場所を訊ねる。ついでにナナリーは既に部隊の一人が抱き上げているから心配は無用だ。


「あんた誰だ!?」

「ルルーシュとナナリーの一番上のお姉さんだよ。私が国にいない間に父上と呼ぶのもおぞましいあのクソジジイが二人を日本に送ってしまってね、やっと迎えに来たんだ」

「……それ、本当に? 信じて良いわけ?」


 胡乱そうな目を向けてくるスザク少年にちょっとキュンキュンしながら何度も頷く。


「ブリタニアの皇族は紫色の目をしているんだ。見てごらん、私の目も紫色だろう?」


 顔を隠していたマスクをずり下げて顔を見せればあっと驚いた様子のスザク少年。


「あんたジーナ姉上だろ? ルルーシュが『姉上はきっと僕たちを助けて下さる』って何度も言ってた、あのジーナ姉上って人だろ? 写真で見た」

「え、そんな嬉しいことを言っていたのかい、ルルーシュは。どうしよう嬉しいじゃないか! ルルーシュは私を何度惚れ直させるつもりなん……ゴホン!」

「それで誤魔化してるつもりかよ」

「気にするな。では改めて、私は第一皇女ギネヴィア・ド・ブリタニア。百十人いる兄弟の長姉だ」

「オレは枢木スザク。ところで言っちゃなんだけどさ……敵国だろ、ここ。皇族自らこんな場所に来ちゃって良いのか? 皇族が忍者みたいなことしてどうすんだよ」

「兄弟愛ゆえだ。さあスザク、ルルーシュの下に案内してくれ」


 日本語の分らない部下たちに彼が案内してくれることを教え、人目を避けつつ辿り付いたのは土蔵だった。まさかここがルルーシュの棲み家だったなんて言わないだろうな。きっとこの地下に秘密の部屋があって、そこに隠れ住んでいるに違いない。きっとそうだ。そうに決まっている。土蔵は蔵であって住宅ではないのだから。


「おい、ルルーシュ!」


 期待は打ち砕かれた。部下たちも信じられないとばかりに顔を押さえ、一人は舞台俳優のように頭を振りながらあとじさった。お前、この任務が終わったら役者になれ。

 土蔵の中からは懐かしい声が聞こえた。――ルルーシュの声だ。


「どうしたスザク――え、姉上!?」

「迎えに来たよ、ルルーシュ。あのまるで駄目な父上のせいでお前が日本に人質に送られたと聞いて、私がどれほど後悔したか。あんな父上はさっさと退位させて獄中にでも突っ込んでおくべきだった」


 思いもしなかったのだろう私の姿に、ルルーシュは目を極限まで見開いて、そして飛び込んできた。四年ぶりのルルーシュは映像で見ていたよりも愛らしく可愛らしい。流石は私の嫁の一人だ。やべぇ鼻血が出そうだ。


「姉上ぇ!」

「ルルーシュ!」

「姉上っ、あねっ……うぇっ!」

「ルルーシュ、ルルーシュ!!」


 その場の雰囲気に流されて感動の再会をした。部下たちは感涙に目を赤くし、土蔵の前では異様に感動的な光景が広がった。

 しばらくして泣きやんだルルーシュを部下の一人に任せ、スザク少年の前に膝を突く。


「スザク、君はこれからどうする? 日本とブリタニアの国力はあまりに大きい。日本が総力戦になるのは間違いないだろう」


 戦争になればお互いの国が疲弊する。それくらいは頭のあまり良くない私でも分ることだ。戦時の特需景気というのもあることは知っているが、国民を戦死させてまで儲けたくはない。

 スザクは目を擦っているルルーシュを見やり、私を見上げた。


「ルルーシュは人質として日本に来たんだよな?」

「ああ、父上が無理やりそうした」

「俺はルルーシュの友達だから、今度は俺が人質になってブリタニアに行く! そうすれば戦争は起きないだろ!?」


 ……はい?

 その後。私は何故かルルーシュとナナリー、スザクを連れてブリタニアに帰国していた。おかしい、どうしてこうなった。

 それから半年が過ぎぬ間に弟妹たちが一斉蜂起して父上を弑奉り、気が付けば私は帝位に着いていた。なんかおかしくないか。皆に背中を押されるまま渋々玉座に着いたらアニメ雑誌で見た覚えがあるシルバーブロンドの少年が何事か叫びながら掴みかかって来たので投獄。が、目的を吐かせるために彼を拷問してもすぐに怪我が治るらしい。確かあれだ、コードとかいう異能が原因なんだよな、確か。シュナは実験するんだと目を輝かせていたが、何時の間にあの子はマッドサイエンティストになったのだろう。

 流されるまま皇帝業を続け二十九になって、はたと思い出した。そういえばルルーシュは皇帝になるという展開じゃなかったか。というわけでキリが良い三十歳になったらルルーシュに帝位を譲ると言ったら、弟妹全員から猛反発を受けた。兄弟の中で一番頭が良く公正明大な思考回路を持つルルーシュなら素晴らしい皇帝になるに違いないのに。どこに問題があるんだ。


「譲ること自体に問題があるのですわ、ジーナお姉様」

「そうですよ。ジーナお姉様が退位されるなんてダメです」

「絶対ルルーシュの方が良い皇帝になるだろうに、どうして私が皇帝であることにこだわるんだ」


 ついついポロリと零した愚痴に妹たちのパンチを受けてよろける。

 カリーヌがKMFの訓練をしているのをベランダから眺めながら、まだ公務には就いておらず暇な妹二人を供に、私は紅茶の休憩と洒落こんでいた。ナナリーは足が動かないからKMFの訓練がなく、ユフィは私に次いで下手くそなせいで匙を投げられた。私よりは上手いのだから自慢して良いと思う。カリーヌは才能があるらしく第一・第三皇女が揃って壊滅的(ナナリーは例外)なことに嘆いていた教導員は張り切っているという。


「兄弟皆、ジーナお姉様だから従うのです」

「ええ。ジーナお姉様の率いていらっしゃらないブリタニアなんて、いる価値がありませんもの」


 何故だろう。弟妹は皆そう言うんだ。これが巷で人気のヤンデレか? 私を王宮に縛り付けたいのか? 私は五体満足で元気なうちに退位して、全世界津々浦々温泉旅行に行きたいと思っているのだ。私はただひたすらハンコを捺しているだけだし、必要ないだろう。ハンコ捺し機が必要なら皇族全員で代わりばんこにハンコ捺し役を回せば良いじゃないか。


「シュナイゼルお兄様によれば不老不死の研究も大詰めとのことですし。ずっと五体満足でいられますわ、ジーナお姉様」

「そう言う意味で五体満足と言ったわけじゃないのだが」

「ずっと一緒ですよ、お姉様!」


 文通相手であるスザク少年も退位に反対だって言うし、私の味方は一人もいないらしい。むぅ、何故だ。どこで間違った。

 原作ではルルーシュが皇帝になるんだって聞いたのだが。おかしい。おかしい……。






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 ネギ様の実年齢がおいくつなのか分らなかったので、とりあえずウー様よりも下だがシュナ様よりは上ということにして二十九歳(無印)ということになってもらった。つまりルルーシュの十一歳上。皇族であることを考えると行き遅れ乙な年齢だけど気にしない。

☆ネギ様能力表☆

頭脳:ユフィ<ネギ様<グレートウォール<ルルーシュ

運動:超できるよ! どのくらいできるかと言うとスザク以上に出来るよ

KMF:ド下手というか機械音痴だよ。精密機械はさっぱり分らないよ

政治能力:毒にも薬にもならないよ。現状維持で精一杯さ

ギアス:もちろんあるわけないよ

弟妹愛:∞、つまり――インフィニティー!


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