08



 私の勘違いだった、らしい。ヒソカさんはストーキングなんてしてなくて、単に私と変態が女同士の友情を育んでいると思って姿を出しかねていたらヘルプコールが聞こえた――ただそれだけらしい。良かった。流石に私も部屋の隅で絶をしたヒソカさんが地縛霊してるなんて勘違いをしたままだったら、今日の晩から枕を高くして眠れないからね。


「なんだか失礼なことを考えられている気がするよ☆」

「気のせいですよ。で、ヒソカさんは今日はどういった用ですか?」


 毎日何かしらの理由を付けて顔を出すから、さて今日は一体どんな言い訳を携えてきたんだろうか。


「今日はドーラの――」

「ダー!」


 私に少女趣味の服を着せて写真館したがっている変態の前でそんな発言をしようとするなんて、ヒソカさんは私に何か恨みでもあるんだろうか? 突然大声を上げた私にヒソカさんは目をパチクリさせる。


「ヒソカさんまさかこの変態の前であの少女服について話をしようとなんて思いませんよね、ね? あれは真っ黒な歴史です! 言わないでください特にこの変態の前では!!」

「うーん、ちょっと落ちつこうか☆」


 ヒソカさんは私と変態の顔を交互に見た末頷き、私の頭を撫でた。同僚が「変態だなんて何度も言わなくて良いじゃない……もしやこれはSMプレイ!? そうなの、そうなのね! なら私、ユキちゃんの奴隷になる! この醜い雌豚をどうぞ罵って! はぁん!」と見悶えているのは無視しないとこれからはやっていけない。


「ちゃんとこの状況こ考慮に入れるべきだったネ。今日の上がりは何時だい? ボクの部屋かどこかで話そう☆」


 押しも押されぬドーラの名は誰もが知っている。会話の内容が他の人の耳に入るような場所で話題にあげるのは本当に止めて欲しい。


「分かりました。今日は五時上がりなので五時半頃ヒソカさんの部屋に伺いますね」

「待ってるよ☆」


 横でさすが変態師匠さすがです、鮮やかなお手前で! とか訳の分からないことを言ってたけど無視。お手並みって何だろう。途中で口を抑えてモガモガしてたのは何でだろう――ヒソカさんの念なんだろうけど、口止めする理由が分からない。


「えーっと、キミ☆ キミは……」

「名前ですか!? 名前はエミリーです師匠! 変態の道を迷いなく突き進む貴方が好きです! 愛弟子にしてください!」

「却下☆」


 ヒソカさんじゃなくて私でも、あれは引く。というか、弟子は弟子でも愛弟子って……。


「キミの名前なんてどうでも良いよ☆ もしユキに変なことを教えたりしたら、キミの首と胴はサヨナラすることになるだろうから気をつけてネ」


 ヒソカさんはぐっと同僚に顔を近づけてからにんまりと笑んだ。瞳の奥が冷えきっているような気がするのは気のせいじゃないと思う。私としても変な知識を横で披露されても困るし、いつまでも横で息を荒くされても嫌だ。ヒソカさんが注意してくれて凄く有り難い。脅し文句が物騒なのはハンターハンターの世界だから仕方ないんだよね。


「わ、わかり、ました!」


 同僚は息を飲んで目を見開き、少し肩を震わせながら頷いた。ごめんね、でも少女服を押しつけようとするのは止めて欲しいんだよ……虎の威だろうが何だろうが借りるよ。

 だけど同僚は私が思っていたのよりも更に酷かったらしい。


「ハァハァ蛇に睨まれた蛙ってこんな気持ちなんですね癖になりそうですうへへ、うへへへへ」


 これには流石のヒソカさんも口の端をひきつらせた。青紫と黒のマーブルとか、とりあえず混ぜたら危険な色を組み合わせたかのような輝きを瞳に灯す同僚ははっきり言って気色悪い。どうして今まで気づかなかったんだろう? 彼女はどうしようもない変態だ。


「百五十階の受付になれて本当に幸せですぐふっ。ぐふふっ☆ ロリと一緒になれるし、そのロリもただのロリじゃなくて変態神のヒソカさんと仲が良いですし。おまえらつき合っちゃえYO☆ 組んず解れつしちゃえよ。身長差萌え。体格差とか無敵すぎるし。やだぁ、そんなおっきいの入らないよう! な展開キボン――ヘブラハァ!!」

「何を言い出すかと思えば卑猥! 部屋に籠もって一人でやってろ!」

「二人のメイクラブ妄想しながらマス掻くんですね分かりまグボッ」


 どうしようこの子、どうしようもない。警備に内線を繋げて二人ほど派遣してくれるように頼み、固まっているヒソカさんの腕を叩いた。肩には手が届かないから。


「ヒソカさんヒソカさん、大丈夫ですか」

「――あー、大丈夫だよ。まさかあんな女の子がいるだなんてね☆」

「あれは特殊だと思いますよ。ヒソカさんとは方向性が違う変態ですね」

「うん、キミの中でボクが変態なのはもう決まってるんだね」

「カストロさんとの試合を見れば分かりますよ」


 ヒソカさん、試合中に股間盛り上げてた。――賞金を渡したり迷子の案内したりする以外は暇だから、職員の権限使って手元のテレビで観戦してたんだよね。見なきゃ良かったと後悔したけどね!


「そうかい……」


 でもまあ、戦うことに性的興奮を持つ人ならヒソカさん以外にもたくさんいる。『戦うことこそ我が命!』とか言う人もいることだし、これといって異常な性癖ではないと思う。原作をチラ読みした時にはうわぁキモいとか思ったけど、闘技場に来る人間の八割が戦闘狂だからだんだん流せるようになった。


「ではそろそろ業務に戻らないといけないので。部屋には五時半に伺いますね」


 ヒソカさんはうさみちゃんがくま吉君に向けるような目で同僚を見下ろした後、一転笑顔を浮かべて私に手を振った。


「じゃあ、またあとでね☆」

「はい、またあとで」


 ヒソカさんが去ったすぐ後に警備員が到着して同僚を連れて行った。彼女がまた帰ってくるかは、神のみぞ知る。


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