07



「助けてヒソカさん」


 その声を耳が拾った瞬間、ボクの体は動いていた☆ ユキの可愛い笑顔を見たくて百五十階へ足を向けたんだけど、どうやら今日はペアを組む日だったらしく十七歳かそこらの女と一緒に座っていた。女が一方的に話しかけているだけみたいだけど、女同士の友情は男には理解できない形のものもあると聞いたことがある☆ もしかするとそういう関係の友人なのかもしれないと思って観察するのに留めていれば、ヒートアップしていく女に面倒そうに顔をしかめるユキ――助け船を出そうかと壁から背中を離したちょうどその時、ユキはか細い声でそう呟いたんだ☆


「やあユキ☆ 昨日ぶりだね☆」


 気になっている相手に助けを求められたら、それを叶えたいと思うのは男の性だよネ。けど、絶を解き片手をあげて姿を現したボクに向けられたユキの目は冷えきっていた☆……アレ?


「あ、ヒソカさんじゃないですか偶然ですねどうなさったんですか」

「いや、キミに会いたくてね☆」

「そうですか、それはようございました」

「どうしたの、ユキ? まるで機械みたいだよ☆」


 冷えきって氷点下並みの視線を向けてくるユキに冷や汗を流す。ボク何かしたかな? 助けてと言われたから助けに来たのに、返ってきたのは安心したような微笑みでもお礼の言葉でもなく氷のようにすげない対応なんだけど☆


「貴方はっ! 我が心の師匠ヒソカ先生ではないですか!! 是非その道の教えを請いたいと前々から思っていました、弟子にしてください!」

「良かったですねヒソカさん、弟子が出来ましたよ」

「するわけないだろ、こんな変な子☆ キミを襲おうとするような人間なんてお断りだよ☆」


 何でだろう、視線の温度がさらに冷えた……☆


「うわーん! ユキちゃん、ヒソカ先生に弟子入り断られたぁ!」

「触らないで下さい変態、変態が移る」


 虫けらを見るような目を女に向けるユキは優しい笑みを浮かべた普段のそれとは全く異なる雰囲気をしていて、そのギャップにゾクゾクした☆ ユキはどんな顔をしていても可愛い。だけど、今みたいな目をしたユキは冬の女王、いや、王女みたいだ☆

 ユキには今のままでいて欲しいから念を無理矢理目覚めさせたりはしたくない――でも、念能力者相手に逃げきれるくらいの力は持っていた方が良いネ。これからどんどんユキの魅力に引き込まれていく人間が増えるだろうし☆


「ヒソカさんどうしたんですか、腕組んだりして」

「ん? ユキの表情にゾクゾクしてただけさ☆」


 ユキがボクと女を見比べ、もの凄く嫌そうに表情を歪めた。何を言いたいのか分からないよ? それにさっきよりもさらに視線が、なんて言うのかな、嫌悪感を増してるし。


「同じ穴の狢ですか……。なんてこと」


 聞こえないと思ったのかユキが小さく呟いたのは確かジャポンのことわざだったはず☆ 意味は何だったかな、確か以前ノブナガが言っていたんだけど忘れちゃったなァ☆

 電脳ページで調べたとしても意味を知るのは難しいかな? ユキの出身地でもあるジャポンは閉鎖的な国で、外国への情報流出を規制しているせいで細切れの話しか聞いたことがない。ジャポン人以外はナガサキのデジマ以外のジャポンの地を踏むことは先ず不可能――ハンターでもない限りね☆ だからノブナガに聞くのが一番手っとり早い方法なんだけど……嫌われてるからね、ボク☆ 素直に教えてくれれば良いんだけど。


「ユキ、『同じ穴の狢』ってどういう意味だい?」

「え? 聞こえてたんですか?」

「モチロン☆」


 君の声なら何キロ離れてたって聞き分けてみせるよ☆


「どんだけ地獄耳なんですか、ヒソカさんって。まあ良いです。同じ穴の狢というのは「たとえ見た目が違っていても中身は一緒」という意味で、だいたいは否定的な場面で使いますね」


 つまり、ユキにとってボクとこの女が似たもの同士もしくは同じような存在に思えたというわけか――何故? 訳が分からない。助けに行ったら失望され、普段とは違う彼女の一面にときめいたら嫌悪された。そのうえこの少女嗜好の変な女と同類扱いだなんて、全く訳が分からないよ☆


「どうしてボクがこんな女と同じなのか教えてくれないかい?」


 ボクはなるべくユキには紳士的に対応してきたつもりだ☆ なのに何故こんな女と同レベルの認識をされなきゃいけないんだい? なんだかキミとボクの認識の間には深い溝があるように思えるよ☆


「え、だって――」


 彼女の考えていたことを聞かされたボクは、床に失意体前屈した。

 ロリショタ嗜好のストーカー……彼女がボクのどんな噂を聞いたのかは知らないけど、あんまりだと思うよ。ボクは強い相手と戦うことでオルガスムスを感じるだけさ☆ ボクは気が長いから、より相手が強くなってから戦う方が何倍も好きなんだ☆ ユキに関してだって見た目がせめて成人並みになるまで待とうって思ってるんだけどなァ。一体キミはどんな噂を聞いたんだい?


「え? どんなって、たとえば、十代始めの男の子相手に股間を元気に――」

「誰だい、そんなことを言ったの☆」


 そんな根も葉もない噂を流した犯人は、見つけ次第問答無用で切り刻んでしまおうか☆


7/15
*前次#

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -