06



 数日して雑誌に私の写真が載っていたのを見て飲んでたお茶を噴き出したんだけど、紙面の女の子が化粧した私だと同僚は全く気づく素振りもなかった。いや、安心したんだけどね? でもちょっとくらい「この子なんだかユキちゃんと似てるね!」とか言って欲しかったかな……言外に『あんたの顔なんて覚えてないんだよ』と言われているような気がするし。横でカワイーカワイーと騒いでいる同僚に一人、羞恥心とちょっとの悔しさで身悶えていた。


「この女の子可愛いよね。なんか小動物みたいで、笑顔も自然だし」

「そ、そっかー」

「こんな妹がいたら絶対猫可愛がりしてる!」

「うん、そっかー」


 雑誌片手に騒いでいる彼女は私より年下なのに二十代前半にしか見えない。人種の違いという深い谷が私と彼女の間に横たわっている気がする。見た目が同年代に見えたとしても、外国人の実年齢×0.7〜0.8が日本人の実年齢と考えるとちょうど良い。でも幼少期は×0.6〜0.7かもしれない――外国では青髭生やした身長百七十代後半の小学生とか平気でいるし。怖いよね、想像すると。ホラーだよ。


「でも私が一番愛してるのはユキちゃんだよー! なんで君はそんなに可愛いんだッ! 危機感も薄いし、おねーさんってばユキちゃんが男に襲われたりしないか不安だよッ!」


 抱きしめられて頬を擦り付けられる。危機感薄いとか言われても、何に危機を感じれば良いのか分かんないし。男が狼だってことも知ってるし。というか、それ以前に私の方がお姉さんなんだからね? 白人が老け顔なだけなんだからね。私は普通なんだよ。


「はうあぁユキたんテラ萌えすー、魔性の笑顔っていうのはこれを言うのね? ハァハァユキたんになら全財産注ぎ込めるっちゃ、ダーリン浮気はダメだっちゃ! おねーさんが貯金崩してでもドーラの服買ってあげるから写メ撮らせろよ大丈夫だ個人のコレクションだから」


 やだこの子怖い。この子と組むのは初めてじゃないけど、今まではもっとまともだったはずなのに。一体何があったんだろう?


「絶対この服似合うよ私が保証する。この服着てニッコリ笑ってくれるだけで良いんだよハァハァ」


 写真の私を指さして息を荒くする彼女に完全に腰が引けた。いや、その服なら持ってるし。ついでに今現在は箪笥の底に押し込んで、ないものと思い込むように鋭意努力中だよ。無理矢理写真撮影のせいで押しつけられたあれをどう処分したものか、古着屋に売っ払っちゃっても良いのだろうか。でもあれ頂き物なんだよね……一応。一度しか着てないあれらはほぼ新古品だし、きっと高値で売れるに違いない。売りたい、でも流石に気が引ける。

 さっきから変態としての本性を隠しもしない彼女は私を抱き込むや、やけに生々しく荒い息を整えることもなく言い募った。


「ねえねえユキちゃん着てくれるよね、ね!? おねーさんに身も心も任せなさい、天国に連れていってあげるから! 痛くないよ!」

「え、嫌です」

「なんでこういう返事だけはストレートなのかな! おねーさんのハートはボロボロにブロークンだよ!?」

「だってホラ、変態に良い顔をしてもつけあがるだけじゃないですか」

「貶された! 変態って自覚はあるけど!!」


 お巡りさん変態がいます助けてください。警備部に内線をかけようとしたら切られた。この人ウザいっていうより怖い。誰でも良いからこの人どうにかしてくれないかな……。


「もお、冗談に決まってるでしょ? 警備員さん呼ぶのはやめてよねっ!」

「顔に本気だって書いてありますよ」

「くそう、いつもが笑顔だから蔑みの表情も萌える……! もっと私を罵れば良いと思うよ!」

「もう駄目だこの人」


 どん引きして彼女を見ていれば息を荒くしだした。この人、まだヒソカさんの方が紳士的に思えてしまうくらいの変態だ。この際ヒソカさんでも良いから助けに着てくれないかな。どっちもどうしようもない変態だけど、天秤にかけたらヒソカさんの方が僅かにましだろうし。


「助けてヒソカさん、変態に襲われる……」


 私の眠れる第六感が囁いたのかもしれない。何故か、こう言えばヒソカさんが助けに来てくれるような気がした。でももしこの台詞でヒソカさんが現れたら、間違いなく彼はストーカーだ。

 (今のところ私には)実害がない快楽殺人者と(今現在私にとって)実害がある異常性愛者。彼女がロリコンだろうと年下の女の子にしか性的に興奮できない嗜好の持ち主だろうと、私に関係なかったら好きにしてくれて構わない。けど、その被害を私が受けるとなったら話は別だ。ヒソカさんがストーカーで、私の生活をおはようからお休みまで見つめていたり絶で着替えを覗いたりしていたとしても、パンツを数枚ぱくって子供向け漫画では描けないようなことをしていたとしても、私は気づいてないのだから精神的被害はない。つまりヒソカさんがたとえロリペド趣味の変態さんだとしても私に実害はない。って、まだヒソカさんがストーカーと決まったわけでもないのに私ってば失礼なことを……。


「やあ、ユキ☆ 昨日ぶりだね☆」


 角から現れたのは数日前にお世話になり、ここ一週間は毎日顔を合わせている男だった――やっぱりストーカーだったのか。こんなにタイミング良く現れるなんて少女漫画じゃあるまいし。絶で私をおはようからお休みまでどころか、寝ている間も見つめているのかもしれない。

 勝手にストーカー扱いした申し訳なさは霧散した。


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