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「カンタービレ(歌うように)」と言って食前酒を飲み干す彼女に少し目を見開く――学がないと言っていたけど、あるじゃないか☆
こういう格式高い店に連れてきたのはもちろんわざと☆ 女の子にはお姫様願望というのがあるとドーラとその部下が力説したのを聞き入れてここにしてみたけど、そういえばこういうことを好まない女子もいるということに今更ながら気がついた☆
「ごめんネ、女の子ならこういうデートが好きだって言われたんだ☆ 気に入ってくれたかな?」
店の雰囲気に慣れてきたらしく普段の表情を取り戻した彼女に聞けば、目をまん丸にして頭を縦に振った☆ そういう行動が小動物みたいで可愛いことを彼女は自覚しているんだろうか?
「私一人じゃ一生入れそうにないところですし、さっきは驚きすぎて目が回りました。こんな素敵なレストランに連れてきてくれて有り難うございます。それにドレスだって」
「ボクがしたくてしただけだからね☆ とっても似合ってるよ☆」
白とピンクを基調としたドレスは彼女の幼い可愛らしさを前面に押し出していて凄く似合っているし、いつも浮かべている笑みが服装と相まって愛嬌のある子猫のような雰囲気を醸している。抱き上げて撫で回してしまいたいくらい可愛いよ☆
十メートルほど離れた席の二人組が彼女に気づいて「勝利の女神」だなんだと話し始めた☆ 天空闘技城でボディーガードらしき能力者に囲まれながら観戦しているのを何度か見た覚えがあるからVIP会員に違いない。
「勝利の女神」というのは彼女の――ユキの通称だ☆ 彼女の微笑みを見るためだけに百五十階の受験者は勝利を求め、今では百九十階よりも百五十階の方に強者が集まっているという☆ 勝者にのみ与えられる賞賛の言葉と笑顔見たさに百五十階のレベルが以前の倍まで跳ね上がったという噂も冗談ではない。あと一押ししてやるだけで念が目覚めるだろう人間がごろごろといるんだ☆
「キミは、ユキはどうして天空闘技場の受付になったんだい? キミならもっと安全で堅実な職場を見つけられただろう?」
食事も終わりかけ、ユキの緊張もほぐれた頃にそう訊ねれば、ワインで顔を真っ赤にしたユキがぽやぽやとした笑顔で答える。
「私、家無き子なんですよー。道で行き倒れていたのを天空闘技場の支配人が拾ってくれまして」
だから恩返ししてるんです、と風船のように揺れる彼女に言うべき言葉を決めあぐねた。支配人という男もたいがいだが、その男を信じてホイホイついていった彼女も彼女で危機感がない☆ いや、もしかすると支配人は彼女の体目当てなのか? それならその無償の好意も分からなくはない。彼女の身の安全のためにも早急に確かめる必要があるね☆
「えへへー、お酒って美味しいですねー。ふわふわしますよー」
「……ワインは初めてだったのかい?」
「お酒なんて飲んだこと無かったですよん」
頭を抱える他ない。一般家庭なら幼児でさえスパイスを入れたホットワインを日常的に飲むというのに、それさえもなかったという。一体どんな環境で育てばこれほど危機感のない人間が育つというんだろうか?
「もう飲むのは止めた方が良いよ……ジュースに代えてもらおうか☆」
「ぶー。私、こえでも十八ですよ。もう大人ですー。お酒だって飲めますー」
十三歳かよくて十四歳だと思ってたんだけど☆ 頬を膨らませてぶうぶう言うユキはどう見ても十八には見えない。昔ジャポンで創作されたというゲンジストーリーかナボコフのロリータのつもりでゲンジ・プランを練っていたというのに、まさかの実年齢に流石のボクも驚いた☆ だけど十八歳ということはもう結婚ができる年齢だ。これは良いことを知ったよ……☆
「へえ、そっか☆ ユキはもう大人なんだネ」
「そーでしゅよ。立派な大人でふ!」
話しながらもグラスのワインを減らしていくユキはどんどん滑舌がおかしくなり、目が据わっていく☆ 真っ赤な頬が可愛らしいと思うのは惚れた欲目だろうか?
ウェイターがデザートのアイスを置き、優雅な足取りで去っていった。柄の長いスプーンでアイスをつつくユキは十八歳には見えない☆ だけど本人が十八だと言っているのだからそうなんだろう、きっと☆
「食べきれるかい? キミの分は少な目にするように手配しておいたんだけど☆」
「甘いものは別腹でしゅよん」
男は狼なのだと親から教わらなかったのか、アルコールの魔力もあってとろけたような笑みを浮かべるユキ――この場で美味しく食べてしまおうか☆
店を出る頃にはもうユキは半分眠っていた☆ 無理矢理も燃えるけどボクだって心がないわけじゃない☆ 小さくて可愛いものを愛でる心があるんだよ? 無垢な子供をいたぶるような嗜好は持った覚えもないしね☆
ホテルに連れ帰って下着姿に剥いてベッドに寝かせた――明日の朝どんな顔をするか楽しみだね☆
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