「兄さん!」


 八月二十日、ヒソカからすると暇人なのだろうオレは、そのちょっと小憎たらしい弟に呼ばれてヨークシンにいた。いつでも呼んだら来てくれるよねとかヒソカは言っていたが、つまりオレを暇人だと思ってるんだろう。まあ暇だけどな。仕事なんて不定期だし、体が一つで足りなきゃ作ればどうにかなるし。


「よ、ヒソカ。今日はどうしたんだ?」

「兄さんを呼びつけておいて何の用もなかったとか言ったら殺してやる」

「……クラーレ」

「ごめんなさい、兄さん。嫌わないで!」


 どうもクラーレは裏表が激しい子な気がする。可愛い子なんだがな、どうしてかオレ以外に――特にヒソカに対して口が悪い。


「ボクだって兄さんを呼びたくなかったさ☆ でも――」

「死ねヒソカ死ね」

「旅団のみんなが是非兄さんに会いたいって言うんだ☆」


 ヒソカはクラーレの言葉を軽く流して言った。旅団っていうと、今ヒソカが所属している犯罪者グループだったよな。あー、ヒソカが迷惑掛けまくったのか? それで親の顔が見てみたい、親はとっくにいないから育ての兄貴を呼びつけろ、ってことか。よし、謝罪の用意はいつでもできてる。ヒソカに渡すつもりだったゾルディック饅頭(ククルーマウンテンのふもとで売ってた。ネタにしかならない)を旅団のみなさんで分けてもらえば良い。


「用件は何なんだ?」


 ――と、ここまで考えておいて何だが、呼ばれた理由を聞かないとな。旅団も他人様にかけている迷惑が計り知れん団体だ、ヒソカのかける迷惑の十や二十気にしないだろ。


「兄さんって情報屋として知られてるだろ? 情報を売ってほしいんだって☆」

「なんだ。電話で言えば早かっただろうに、なんでオレ本体まで呼んだんだか」


 ならゾルディック饅頭はヒソカにやろう。わざわざ客に茶菓子を出すつもりはない。それにしても旅団からの依頼か……旅団が目を付けそうな名のあるファミリーや美術館にはオレの分身であるネズミちゃんが何匹も潜り込み情報を頂いている。雇われ従業員や職員でさえ知らんだろう抜け道も何本も知っているからなんでもござれだ。オレに死角なし。手の中の念粘土を揉み潰した。――顔を合わせる前に、少し探らせてもらうか。小声で唱える。


「Hi , My sweet Jerry!」


 日本語でいえば『オレの可愛い子ネズミちゃん』。実際のジェリーは成獣だが気にしない。手の中から茶色のネズミがスルリと滑り落ち、クンクンと鼻を鳴らして走りだす。


「何か言ったかい?」

「いいや?」


 弟の同僚だからといって信頼するほどオレはできた人間じゃないんでね。










「まさかサイトがないなんて思いもしなかったよ」


 シャルナークが閉じたパソコンを撫でながら呟く。――そう。まさかネットにホームページを持っていない美術館だとは思いもしなかった。ホームページがあればそこから辿ることもできるが、なければそれは難しい。


「だからこそあいつの兄を呼んだ」

「そうなんだけどね」


 オレが言えばシャルナークは肩をすくめながら答える。


「でもあの変態の兄よ? いったいどんな奴が来るんだか」

「弟が奇術師なら兄は道化師だったりしてね」

「害になるような奴であれば斬る、それで良いじゃねーか」

「言えてらーな」


 と、入口に小さなオーラが現れた。野生動物並みの気配の消し方だったため突然現れたように感じられ、全員の顔に緊張が走る。


「ネズミ?」


 ガラクタの間から顔を出したのは茶色のネズミで、その矮躯からどうしてそれほどの力が出るのか、巨大な看板を掲げた。


「合格?」


 看板には合格、とでかでかと書かれていた。ホワイトボードらしいそれをいったん地面に下ろして書き直す。


「情報屋『ジェリー・マウス』です、か」


 なるほどネズミだ。ニヤリと笑むめばネズミが消え、代わりに戸のない出入り口から影が三つ入ってきた。ヒソカ、背の高い女、それと朱金の髪色の青年。


「初めまして幻影旅団。オレが情報屋のジェリー・マウスだ」


 そう言って前に出た青年は、どうしても十代後半にしか見えなかった。


「あんたがジェリー・マウス? ヒソカの兄の?」

「ああ、そうだ」

「本当に? 弟じゃなくて?」

「オレは今年で三十二だ」


 パクノダがしつこく聞けば、気を害した様子もなく頷く青年。


「兄さんだよ☆」


 この男とヒソカは血が繋がってるのだろうか。


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