02



 半年ぶりに帰ってきた天空闘技場、人気だという百五十階の受付嬢を見に行ったのはつい一昨日の話☆ 絶をして観察していれば、勝者に向ける優しく柔らかい笑みに胸が打ち抜かれた。まるで家族に向けるようなその笑みは他の受付嬢たちとは一線を画してる☆ 絶えず浮かべるそれは神秘的で、彼女が笑みではない表情を浮かべるのは書類や掲示板を見る時のみ――文字をゆっくりとしか読めないのだろう、他の人の何倍も時間をかけて読み切った後に浮かべる満足そうな表情は可愛らしいし、真剣なそれを邪魔してしまいたくなった☆ 彼女の名前はさっき本人から聞いた……ユキと言うのだそうだ。何度も呼ぶともったいない気がするね☆

 困惑するユキ――彼女を押し切って約束を取り付けた後その場を去った、ふりをしてまた彼女の観察に戻る。無理矢理ディナーの約束をしたけど、もうお金を先に払っていると教えれば彼女は困った顔をしながらも断れないに違いない。今も困り顔で小さく唸っているしね☆

 彼女に惚れている男はたくさんいる。その一人らしいさっきの試合の勝者が顔を真っ赤にしながら彼女に話しかけるのを苦々しく思いながら見やる――彼女は慈愛に満ちた笑みを浮かべて賞金の入った封筒を渡した。わざと彼女の手を握り込むように封筒を受け取った男にイライラが募っていく。

 彼女はキミみたいな汚いのが触れて良い人間じゃないんだ☆ 見れば分かるだろ? 危機感とは無縁な雰囲気と小動物みたいなちょこちょことした動き、絶えずボクの心を癒してくれる柔らかい笑み☆ さっきディナーに誘ったときも困ったという顔を隠しもせず眉根を力なく垂れさせていた。……キミたちなんかが見て良い人間じゃないんだよね☆


「あ、あの?」

「あっ、あっあ、あんなっ! 今晩一緒にメシ食わねぇかっ!? もし勝てたらアンタを誘うんだって決めてたんだ!!」


 彼女を誘った――彼女を誘った? あんな弱い人間が?


「えっと、ごめんなさい。今日は先約があるんです」


 ついトランプを取り出しかけていたボクは、その言葉に目を見開いた☆ さっきボクが彼女を誘った時は「先約がある」なんて言わなかった。つまり、彼女はボクが一方的に取り付けた約束を守ろうとしてくれているってこと。顔に血が上る――嬉しさのあまり絶を解いてしまうかと思ったよ☆


「良ければまた誘って下さい」


 仲の良い弟でも見るような目を向けて微笑む彼女に男は何度も首を振った。オドオドと背中を丸めて顔を赤くした男は傍目には見るに耐えないものだというのに、そんなみっともない男にさえ笑顔を振りまく彼女に少し嫉妬と心配が胸を満たす。ここで働き始めるまでどこでどんな生活を送っていたのかは知らないけど、彼女には危機感が足りないね☆ あんなに笑顔を振りまいていたら襲ってくれと言っているようなものだ☆ もしここで働いていなければ、もし街の定食屋なんかで働いていたりしたら、彼女はとっくに悲惨な目に遭わされていたに違いない。


「絶対に落としてみせるからね☆」


 キミの笑顔はボクだけに向けていれば良いんだよ☆


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