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 私は気がつけば天空闘技場の裏手に倒れていた。偶然そこに通りかかった支配人さんのおかげでご飯と宿に困ることなく、今では百五十階の顔とまでなりました。与えられたのは試合に勝った人に笑いかけておめでとうございますって言いながら賞金を渡すだけの簡単なお仕事――なんだけど、あんまり人気のない職種らしい。天空闘技場に来るのが荒くれ者ばかりだからだろうか? 賞金を受け取りに来る人たちはみんな顔を真っ赤にして、異性と話すのに慣れてないのかどもりながら私に話しかけてくる。巨体が背中を丸めておどおどと話す姿はなんだか微笑ましくて、そのせいで時々笑っちゃうんだけど。

 ハンター×ハンターの世界だと知ったときは不安に押し潰されそうで怖くて泣けたけど、ここは意外と平和で心癒される職場だ。支配人さん拾ってくれて有難う。

 ――と思ってたのは一昨日までの話。


「今日も可愛いね☆」

「有難うございます」


 そういえばヒソカさんが来るんだった。私がここに就職した時に試合を一つ終わらせて、それから半年闘技場から消えてフラフラしていたらしい。登録が抹消される前にまた試合をしようということなんだろうけど、そのまま抹消されてしまえば良かったのにと心底思っている。だって怖いんだもの。


「実はハンター試験を受けてきたんだけどネ、試験官が面白味もない男でさ☆ つい半殺しにしちゃって不合格になっちゃった☆」

「そうなんですか、では来年また受け直すんですね」


 表面上は取り繕ってるものの、記憶違いじゃなければ原作一年前じゃないのコレとか変態ヒソカさん超恐いとかせめて化粧を落としてくれれば視覚的なダメージが軽減されるどころかプラスになるのにとか思ってたり――あれ、私ってかなり剛胆? 自分が繊細な人間だとは思ってなかったけど、本人を目の前にしてアニメ版サービスシャワーシーンを思い出すなんて毛の生えた心臓じゃないだろうか。


「ねえ☆ 今晩食事でもどう?」

「自炊派なので遠慮します」

「キミが一緒なら素敵な夜になると思うんだよネ」

「私みたいな学のない女、ヒソカさんにはきっとつまらないですよ」

「学なんて人を飾る装飾品の一つでしかないさ☆ ボクはキミの笑顔ほど素晴らしい笑顔を見たことはないよ☆」


 しつこい質らしいヒソカさんがずずいと迫ってくる。


「ですが……」


 私は貴方と仲良くなりたくないんだよ、とは流石に言えないけど。困り果てた私の耳に救いの声が届いた。今していた試合が終わったのだ。あと数分もすれば勝った方が賞金を受け取りにくるはずで、ヒソカさんがここにいたら仕事の邪魔だ。私は巨体が背中を丸めてオドオドする姿に癒されてるんだよ、癒しを奪わないで欲しい。


「ヒソカさん、すみませんが仕事なので……」


 もうどこかに行って下さい、と頼めば不満そうに唇を尖らせた。そんな顔をしても可愛くないとか思っている時点でもう感覚がおかしくなってきてるような気がする。私は弱者私は弱者私は弱者私は弱者。


「ま、良いや☆ 仕事が終わったら迎えに行くからね☆」

「え、ちょっ!」


 言いたいことだけ言って去って行ってしまったヒソカさんに慌てて声を張り上げるも無視され、私はひたすら今日の仕事が終わらないことを祈った。


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