10



 ロード様専用の着信音が響き、オレはすぐさま受話器を取り上げた。


「はい、シルバです」

『おはようシルバ君。三か月ぶりだね!』

「ええ。ロード様もお変わりがないようですね」


 ロード様の元に派遣している執事から怪我や病気の報告もない。無い便りは良い便りと安心しながらも、電話がないことを少し物足りなく思っていたところだった。爺さんが声を聞きたそうに睨みつけてくるためハンズフリーに変えた。


『うん。シルバ君たちもどう? 元気してる?』

「ええ。お陰さまで全員怪我もなく健康です」

『そっか、良かった! でね、本題なんだけど、今からそっちに遊びに行っても大丈夫かな。イルミとミルキにも会いたいし、無理なら良いんだけど……』


 爺さんがオーラで「許可しなかったら血祭に上げる」と空中に書いているのを見ながら頷く。わざわざ言われなくともそのつもりだ。


「もちろん良いですよ。ですが十五分程後でも宜しいでしょうか、こちらも少ししなければならないことがあるので」

『え、何か他に用事があった? なら良いよ私、別に急いで会わなきゃいけないわけじゃないし』

「いいえ! 十分で大丈夫です。十分後にお越しください」

『え、うん。ごめんねシルバ君。邪魔しちゃって』

「そんなことはありませんよ。ではお待ちしています」


 オレが受話器を置いたその直後、爺さんが執事室へ内線を繋ぎ叫ぶように命令した。


「十分後にロード様がいらっしゃる! 総員出迎えの準備じゃ!」


 その言葉にククルーマウンテンが揺れたと、次の日の新聞に載っていた。











 イルミは八歳、ミルキは生まれたばかりで零歳。普通なら三百年もあれば原作なんてパーになっているはずなんだけど、好本さんがいらないのに張り切ったお陰で覚えている。というか、時々脳内の情報が更新される。いらないのに。

 毎回のことだけど一家総出で出迎えられた。私は慣れてるから良いけど、私を運んでくれた能力者は顔面を蒼白にして、十七時に迎えに来ると一言残すと逃げ帰っちゃった。怖いのは仕方ないよね、私も慣れるまでは怖かった。


「三ヶ月ぶりー。キキョウさんももう元気みたいで良かったよ」

「まあ、まぁぁ! 大御婆様に心配していただけるだけでわたくし、たとえ病気でも怪我でも、吹き飛ばしてしまいますわ!! オホホホホホホホホホ!」


 上品なはずなのに超音波みたいな笑い声で内心耳が痛いなーと思いつつ、にっこり笑ってミルキを受け取った。横で巨大な老婆――私よりは若いだろうけど――が感動のあまり泣いてるけどあえて無視だ。「ミルキ坊ちゃんにロード様が祝福をお授けになられた」とか言ってるけどそんな力ないからね?

 好本さんが「次はそれでいきましょう」とか言ってる気がして背中に鳥肌が立った。


「久しぶりだね、イルミ」

「うん、ロード久しぶり」


 イルミはまだ十歳にもならないのに表情が動かなくて、虐待を受けてる子供みたいな雰囲気がプンプンする。体は修行で痣だらけだし、耐毒訓練のために何種類もの毒を服毒してるせいでガリガリだし。


「むーん、ゼノもシルバ君も初孫で初子だからってやり過ぎだよ。このままだとイルミが壊れちゃう」


 細い腕に触れればイルミの体の状態が分かった。まあこれも好本さんのせいなんだけど、便利だから有り難く使わせてもらってる。

 イルミの骨はあと数週間も同じ訓練を続ければ疲労骨折しそうで、少なくとも五日は毒抜きのご飯といつもの七割程度の訓練にするべき。そう言えばゼノは「やりすぎたようじゃの……」と恥ずかしそうに頭を掻いた。というわけでとっととレッドカードな部分は治してしまおう。


「イルミ、治すよ」

「うん」


 従順にイルミは頷いたから、ぱっぱと治してしまう。切り傷や青あざが瞬時に消え、キキョウさんが興奮のあまりか高笑いした。シルバ君の趣味が悪いと言うつもりはないけど、どうしてシルバ君はキキョウさんと結婚したんだろう? この超音波はかなり耳にくるよ。


「ありがと」

「どういたしまして」


 私の服の袖を摘むイルミにときめきながらシルバ君に先導されて屋敷内に入る。執事さんたちが深々と頭を下げる中ちょっと居心地悪いなと思いつつ居間に通され、ミルキを借りて抱きながらお茶を供せられる。私の紅茶には毒を入れても入れなくても意味がないから毒無しで、イルミも今日からしばらくは毒無し、ミルキはまだ飲めない。

 茶受けと紅茶を頂きながらミルキの柔らかい頬をひたすらプニプニし続ける。柔らかいよ、弾力あるよ! ちょっとタオルケットとかで脂が抜けてかさついてるけど十分すべすべしてるし、頬をすり付けて感触を楽しんでいれば、何故かイルミが少し不機嫌になった。


「どうしたの、イルミ」

「ミルキばかり構うのは駄目」

「い、イルミっ」


 なんて可愛いの。これはあれですか神様、イルミを愛でろってことですか! まるで新しく貰われてきた子猫を構う飼い主に対して拗ねている猫みたいじゃないの。片手をイルミの頭にやって撫でてあげれば目を細めて頭を手に押しつけてきた。凄く可愛い!


「じゃあミルキはキキョウさんに返して、外に遊びに行こうか」

「うん」


 というわけでミルキをキキョウさんに渡してククルーマウンテン散歩と洒落込むことにする。そういえば私試しの門を開けて入ってきたわけじゃないんだけど、ミケに襲われないだろうか。まあ殺されても何度も生き返るけど気になる。よし、会いに行ってみよう!


「イルミ、試しの門に行こう」

「分かった」


 手を繋いで試しの門へ向かう。そういえばゼブロさんはもういるのかな?


10/10
*前|×

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -