09



 世界的な治安は年々良くなっていった。聖女教は日々淡々と人を救い各地で支部が出来るくらい信者を増やし、ハンター試験の合格者は新たな地を開拓し町の治安を守った。全ては順調といえ、私の年齢が遂に三百へのカウントダウンが五を切ったことを除けば平穏といえた。


「私人間なのに」

「そうね、ロードは人間よね」


 ルシオラちゃんが頷きながらお茶を入れてくれる。ルシオラちゃんは元々人外だから良いけど、私は人間なのだ。なのに何故こうも私は長生きなのか。まあその理由は知ってるんだけど、遠い目をしたくなる。

 百歳の誕生日を越えたあたりだっただろうか。そろそろ寿命来てもおかしくないよねと思いつつも、教団の皆を置いて逝くのはかなり申し訳ないなとも考えていた。体にガタが来てないけど、普通なら人間の寿命は長くても百二十年くらいだろうし、そろそろポックリ逝くかも――なんて。

 いつポックリ逝くんだろうかとドキドキしながら眠り目覚めることを繰り返していたある日、私は変な夢を見た。コンビニみたいな店内には色々な物が陳列されていて、その一つを手に取ってみると王の財宝《ゲート・オブ・バビロン》と書いてあった。値段は二千魂。……何これ?

 横にあったコアラの○ーチみたいな箱には無限の剣製《アンリミテッド・ブレイドワークス》と書かれていた。値段はやっぱり二千魂――どうやら私の目はおかしくなったみたいだ。瞼を閉じて瞼の上から目を揉む。もう一度。無限の剣製《アンリミテッド・ブレイドワークス》。


「それを気に入られましたか」


 突然声をかけられたことに肩を振るわす。後ろを振り向けばコンビニ規定の制服のような格好をした女性が立っていて、柔らかいほほえみを顔に浮かべていた。


「あ、いえ」

「そうですか。何故ここにいるのか疑問に思っていらっしゃるでしょう? 説明をしたいのでこちらへ」


 女性は手でレジを指し示す。レジ台には何故か湯気を上らせる湯呑みが置かれていて、そして子供用の足の長い椅子。

 レジ台の向こうに座った女性の胸には漢字で「好本」と書かれた名札が付いている。こうもと? すきもと? 読めない。


「初めまして、マネージャーのヨシモトと申します」

「あ、ロードです」


 好本でヨシモトと読むのか……初めて知ったよ。ていうか、マネージャーってどういうことなの?


「今回わたくしがロード様をお呼びしましたのは、ロード様にご連絡せねばならない事項が出来ましたためです」

「は、はい」


 好本さんは私にお茶を勧め、一息置いて話し出した。話によれば、私が命を救った人の数が直接的にと間接的にと合わせて十万人を超えたため魂なる単位のポイントがありえないくらい溜まり、今のうちに何かで消費しないと上限額以上はカットされてしまうからだそうだ。勿体ないので消費してくださいと目録を渡されたものの、何をもらえと言うんだ。


「どうせならオーラを追加購入なさってはいかがですか? オーラが多ければその分治療時のフィードバックが少なくなりますし、良いこと尽くめですよ」

「あ、なら買います」


 ――そう乗せられて買った、私は騙された。というかその意味を分っていなかった。オーラが多ければ寿命もそれに準じるのだと。

 そしてそれに気づいたのは数十年後の話で、それまでの間に私は何度かオーラの追加購入をしてしまっていた。


「オーラ量だけ言ったら人類最強レベルだよ私。てかいつになったら死ねるんだろ」

「ロードはもはや人間捨ててると思うわよ」

「聞きたくない」


 耳を塞いで唸りながらマネージャー好本さんの笑顔を思い浮かべる。私はVIP客だとかで来店時には必ずあの人が対応してくれるんだけど、あの人話が巧いからいつの間にか乗せられて色々と買わされてしまうのだ。まあオーラを買ったおかげで治療後にしんどくなることもなくなったし良かったことは良かったんだけどね。

 でもこの人間なのに三百年生きているせいで、私は生き神様扱いされている。ハンター協会現会長のネテロもアレで私より二百年若いんだよね……。十歳かそこらの時に病気を治してあげた私にフォーリンラブして、それから一途に私を信仰してる。神様になった覚えはないんだけどなぁ……。


「ねえ、ルシオラちゃん。私でも恋できると思う?」

「できるわ、恋するのに年齢なんて関係ないから。――したいの?」

「人間とは無理かなぁと思ってるよ」

「今度、神族の独身男紹介してあげる」

「……ロリコンじゃない相手を希望するよ」

「ごめんね、望み薄よ」

「この世に神はいなかった!」

「神族はいるわよ?」


 そう言う意味じゃないこと分ってるくせにルシオラちゃんのばか。顔を覆って嘆く。私と結婚しようなんて言うのは西条さんみたいなのしかいないの!? 私のストレス発散っていえば前世では本屋巡りとカラオケだったけど無理。だって――


「教団のせいで顔が売れすぎて街の散策もできないし」

「その設立を決めたのはロードよね?」

「ですけどねー」


 ノーブレス・オブリージュだと思って設立したけど面倒しか転がり込んでこなかった罠。


「じゃあ今度イルミとミルキ見に行く! あそこなら安心安全!」


 兄の子孫とは私個人のみならずハンター協会も関わりが深い。協会がゾルディックに、才能はあるけど思想的に問題がある合格者の暗殺を依頼してるんだよね。


「まあ安全で安心よね」

「でしょ。というわけで電話しよう」


 シルバ君に今から行っても良いかと電話したら十分待ってくれと言われた。他に用事があったなら別に断ってくれても良かったのに。


「それ、本気で言ってるの?」

「うん? どうしたのルシオラちゃん」


 つい口に出してたらしい。独り言を聞いたルシオラちゃんが変な顔をして私を見下ろした。


「いいえ、何でもないわ。ただゾルディックの人たちが可哀想になっただけ」

「何で!?」


 ルシオラちゃんは教えてくれなかった。


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