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 私たちの予想を裏切って千人を越える応募がきたから、受験者の輸送時にそれぞれで選定試験を行ってもらうことになった。それでせめて三百人程度に減らしてもらうつもりだ――百人来たら良いな、という想定でいたから会場の大きさが足りないのだ。


「そういや、初年度の合格者数はどんくらいにすりゃええんや?」

「才能のありそうな人がたくさんいるなら多めに、いないようだったら少なめにすれば良いんじゃないかな」

「そりゃ分かっとるんやけどな……ホラ、何人前後、みたいな基準はないんかい?」


 タダオが口にした疑問は、私が今頭を悩ませている問題そのものだった。少なすぎたら受けようと思う人間が減らないか? でも、だからといって多くしすぎたら逆に印籠を持った犯罪者が生まれることになる可能性が高い。原作では確か五人程度だったけど、ジンの時とキルアの年は一人だけ。


「ロード様、タダオ、まだ受験者の全体的なレベルも分からないうちにそのようなことを考えるのは無駄ですよ」


 考えるのならばそうですね、主に幼女について等はどうでしょう? と訊いてきたアルビレオさんは無視することにして、私はソファの肘掛にもたれかかった。

 会場の舞台上、それも中央の一番目立つところに座っている私だけど、ハンター協会の会長ってわけじゃなくて名誉会長とかいう権利も義務もない立場らしい。まあ、名前を貸してるだけだしね。会長は端っこで小さくなってるけどもっと堂々と真ん中に……来れないか。

 初代会長としてその手さぐりだらけの仕事を押し付けられたのは教団の人間ではなく全く新規で見つけた中年男性。アルビレオさんが「幼女以外の手を握るなんて反吐が出ます」と言いながらも色んな人を確認した末に決まった人で、数年前までボス不在なショッカーたちの同類だったらしい。ある時ふと「オレ、こんなところで何をしてるんだろう」という悟りに目覚め、それ以降心を入れ替えて頑張ってきたのだとか。何らかの要因で厨二病が治ったんだろうね。今では可愛い奥さんと三歳になる息子さんと零歳の娘さんがいるというから、少なくとも十五年は娘をアルビレオさんに近づけないように厳重に言い聞かせておいた。


「まあ今回だけは幼女についての会議は後回しにすることにして」

「仲間内でしとれ……」

「今も後もしませんからね」


 アルビレオさんは私とタダオの返事に凹むことなく話だした。


「下手に人数の設定などをしてしまっては基準が厳しくなりすぎたり緩くなりすぎたりします。ですから私たちはただ合否を判断するだけだと考えるべきです。それが多いか少ないかは私たちが判断することではないのですから」


 珍しくまともな意見だ。私が目を見開いてアルビレオさんを見上げれば、考えの読めない笑みを浮かべながら「今失礼なこと考えませんでしたか?」と訊いてきたから首を横に振る。笑顔が横に振れと語っていた。


「じゃあ前から言っていた通り、念の才能がある・倫理感が一定の基準を満たす・三四人に囲まれても生き延びられる人だね」

「このご時勢ですと倫理感が一番のネックですがね」

「そうだね。でもそれに関しては緩くしても良いかもしれない。一応ここにも残念な倫理感の持ち主がいるけど犯罪はしてないわけだし」

「はて、誰でしょうね? タダオのことですか?」

「アホ! オマエのことや!」


 YESロリータNOタッチの語句によって目覚めたのは倫理感や理性じゃなくてストーカーにだったみたいで、アルビレオさんは私を陰から観察するという奇行に走りだした。一体彼が何を目指しているのか分からないし分かりたくもない。時々物影で息を荒くしているのを見るにつけ聞くにつけ寂寥感に襲われる。

 そこに、そろそろ受験者の第一波がくるという連絡が入った。無線を切って二人に伝え、端っこで丸くなっていた会長を呼び寄せる。私は名誉会長なのであって会長じゃないのだ。おずおずと近寄ってきた会長を横に座らせて前を見据える。

 ――そして、会場の扉が開いた。


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